【7月15日 AFP】ドイツ南西部の緑豊かなワイン生産地にあるカルシュタット(Kallstadt)の村。住民たちに村の自慢を尋ねればたくさんのものを挙げてくれるが、その中にドナルド・トランプ(Donald Trump)氏の名はない。

 米大統領選で共和党の候補指名獲得が確定しているトランプ氏の祖父母は、住宅が整然と立ち並ぶこの村で育ち、今から100年以上前に米国に渡った。

 伝記作家のグウェンダ・ブレア (Gwenda Blair)氏によると、トランプ氏の祖父、フリードリヒ(Friedrich Trump)は16歳だった1885年に米国に向かった。ニューヨーク(New York)で姉妹たちと合流した後、フリードリヒはゴールドラッシュの時期に米西部に移動し、そこで食事と酒、そして女性との触れ合いを富を求めて集まってきた男たちに提供する酒場を開いた。

 フリードリヒは英語風にフレデリック(Frederick)と名前を変え、金塊をニューヨークにいる姉妹たちに送った。姉妹たちはこの金塊で不動産を購入し、後の「トランプ帝国」の基礎を作った。

 経済的に豊かになったフレデリックはカルシュタットに戻り、近所に住んでいた人の娘エリザベト・クリスト(Elisabeth Christ)と結婚。妻を連れてニューヨークに戻った。

 妻がホームシックにかかったためすぐにカルシュタットに戻ったが、フレデリックは兵役義務を終える前に渡米していたため、1905年に妊娠していた妻と共に渡米せざるを得なくなったと、歴史家のローランド・ポール(Roland Paul)氏は説明する。

 トランプ氏の祖父母が暮らしていた当時、エンゲルスガッセ(Engelsgasse、天使の小道の意)と呼ばれていたフラインスハイマー通り(Freinsheimer Strasse)沿いに向かい合って立つ簡素な白い家々に今、銘板などは付けられていない。「トランプ」の名が冠された通りもない。

 しかし押しの強い大富豪のトランプ氏が今年の米大統領選を制して自由主義陣営のリーダーとなれば、人口1200人のカルシュタット村でも「トランプ」の名が話題になるだろう。

 トーマス・ヤオレク(Thomas Jaworek)村長(48)は「トランプ一族は不動産事業で財を成した。大きな功績だが、いまもこの村に住んでいるトランプ家の人は一人もいない。どうして私たちが誇りに思わなくてはならないのか?」と語った。「もし彼が大統領になったら、米国や世界のためにどんなことをしてくれるか、まずはお手並み拝見、というところだ。場合によっては銘板を付けてもいい」

(c)AFP/Deborah COLE