【6月10日 AFP】焼け焦げたれんがの壁と、地面に残った灰のそばに立つ2人の少女──視線の先にあるのは、自分たちにイスラム教の聖典コーラン(Koran)を教えてくれた「親切で優しい」先生が、自ら選んだ男性と結婚したことを理由に無残にも母親に焼き殺された現場だ。

 パキスタン東部ラホール(Lahore)で8日に撮影された写真に写るのは、マハム(Maham)さん(10)とムスカン(Muskan)さん(10)。2人が見つめる場所ではこのわずか数時間前、ジーナト・ビビ(Zeenat Bibi)さん(16)が体に灯油をかけられ、火をつけられて殺害された。

 9日にAFPの取材に応じたマハムさんの母親のラニ・ビビ(Rani Bibi)さんは、事件当日の夜、取り乱して泣く娘に、自分はあなたを愛していると言い聞かせなければならなかったと語った。

「娘は泣き続け、何も食べようとしなかった」。その夜は親子で一緒に寝たが、娘からは何度も「なぜ先生は殺されたの?」「なぜ先生のお母さんは先生を殺したの?」と聞かれ、ラニさんは「心配しなくていいのよ。あなたは私の愛する娘なんだから」と答えたという。

 写真の中でピンクと黒の衣服を着て、顔をしかめながら焦げ跡を見つめるマハムさんはAFPに、ジーナトさんの遺体を覆う布からはみ出た足が見えたと語った。「それを見て泣き出してしまった。私の先生は死んじゃったんだと思って」「すごく怖かった」

 活気あふれる文化の中心地とされるラホールで、ジーナトさん宅の向かいに住むムスカンさんも、ジーナトさんからコーランを習っていたという。ムスカンさんの祖母ナスリーン・ビビ(Nasreen Bibi)さんはAFPに、帰宅したムスカンさんの顔は青ざめ、「とても怯えた様子だった」と語った。

 マハムさんの母とムスカンさんの祖母はともに、ジーナトさんが「とても親切で優しい」女性だったと語った。

 ジーナトさんの焼殺事件を受け、パキスタンで相次ぐこうした「名誉殺人」への対応を求める声が再燃している。保守的なイスラム教徒が多いパキスタンでは毎年、数百人もの女性たちが家族の名誉を汚したとの理由で親族に殺害されている(c)AFP/Khalid ALI