【6月14日 AFP】密猟者に角を切り落とされ、大けがをしたメスのサイ「ホープ」は、治療のために目隠しをされ、両耳に脱脂綿が詰め込まれた状態で鎮静剤が投与された──。

 約1年前、南アフリカ南部ポートエリザベス(Port Elizabeth)郊外の禁猟区で瀕死の状態で放置されていたホープ。顔に負った大きな傷を治療するため、これまでに手術が15回行われた。

 獣医師のヨハン・マレ(Johan Marais)氏は、ホープの傷を見ながら「6割方治った」と楽観的な口調で語る。救出された当時、顔の傷は約1メートルに及ぶ大きなものだったという。

 しかし、その治療法に関しては、今後もリスクを伴う実験的なものであることには違わないと強調。「どの抗生物質をどの程度与えればいいのか、どの鎮痛剤を与えればいいのか。サイの基本的な生体構造さえ分かっていない」と続けた。

 6歳のホープを治療しているのは、密猟で傷ついた野生動物を対象に活動する非政府組織(NGO)「セービング・ザ・サバイバーズ(Saving the Survivors)」の獣医師らだ。

 南アフリカには約2万頭のサイが生息しており、世界の生息数の8割を占める。しかし同国のサイたちは近年勢いを増す国際的な密猟シンジケートの脅威にさらされている。

 サイの密猟は角を目当てに行われている。サイの角はベトナムや中国では、がんなどの病気を治す薬とも、催淫効果のある媚薬とも考えられている。しかし、その成分は主にケラチンで、ヒトの爪とほとんど変わらない。

■全ての個体が重要

 密猟の対象となったサイの個体数は、2008年に100頭を下回っていたが、2015年にはその数は同1200頭に激増。1キロあたり推定6万ドル(約640万円)とされる角の取引価格も、この傾向に拍車をかけていると考えられる。

 ホープは密猟者の襲撃をなんとか生き延びた。あれから1年、マレ氏とチームはさまざまな技術を駆使しながら、治療を続けている。

 ホープの手術にはこれまで4万5000ドル(約480万円)が投じられているが、セービング・ザ・サバイバーズにとってこれは有意義な投資でもある。「絶滅が危惧される種にとっては、遺伝的多様性の確保においてすべての個体が重要となる」と麻酔医のヤナ・プレトリアス(Jana Pretorius)さんは語る。「サイが10万頭いれば、こんなことはしないだろう。しかし危機に瀕しているのであれば、こうした行為は意味のあるものとなる」

 世界には約2万5000頭のサイがいる。ホープはこの種の存続を体現しようと日々の活動に取り組んでいる。

 ホープは、近いうちに治療を終え、元の自然環境へと戻される予定となっている。角が切り落とされた部分には、新たに小さな角の再生が確認された。(c)AFP/Béatrice DEBUT