■大手企業やアーティストが抗議

 こうした法律に対しては、全米のトランスジェンダーやLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)人権擁護団体から抗議が集中し、またいくつかの大手企業やアーティストらもそうした措置を非難している。例えば、電子決済会社大手ペイパル(PayPal)は4月、ノースカロライナ州の決定に抗議し、400人分の雇用創出が見込まれていた同州での業務センター開設計画を撤回。一方、ロック歌手ブルース・スプリングスティーン(Bruce Springsteen)さんをはじめ、複数のミュージシャンは公演を中止した。

 小売り大手ターゲット(Target)も、顧客や従業員は「自らの認識する性別向けのトイレや試着室」を使用できるという声明を出したが、この声明は反発を招き、保守派のキリスト教団体アメリカ家族協会(AFA)が不買運動を展開。100万人以上の署名を集めた。AFAは声明で「ターゲットの新方針は間違いなく、妻や娘らに危険を及ぼす」「この方針は、性犯罪者らが標的に近寄ることを許してしまうものに他ならない」と糾弾した。

 一方、米政府はトランスジェンダーをめぐるトイレ法案は憲法に違反すると警告しており、4日にはノースカロライナ州に対し同法案の撤回を要求。これに応じない場合、連邦政府からの補助金カットもあり得ると示唆した。

 支援団体「トランスジェンダー法律センター(Transgender Law Center)」のクリス・ハヤシ(Kris Hayashi)事務局長は、「こういった法律は、トランスジェンダーに対してだけでなく、男性あるいは女性はこういう見かけであるべきという既成概念にそぐわない人に対するハラスメントのきっかけを与えることになる」と指摘する。ハヤシ氏は、トランスジェンダーであるかどうかに関係なく、公衆トイレで罪を犯そうとする者から市民を守る法律はすでに存在しており、安全性を疑問視する論点は常識を逸しているという。

 この論争は米大統領選の選挙運動の中でも取り沙汰されている。デリケートなテーマについても発言を抑えないことで知られるドナルド・トランプ(Donald Trump)氏は先週、トランスジェンダーの人々は好きなトイレを使えるべきだと語った。

 これは共和党内の指名獲得争いで対抗馬だったテッド・クルーズ(Ted Cruz)上院議員の見解とは正反対だ。クルーズ氏は選挙戦からの撤退表明前にツイッター(Twitter)で「幼い少女たちを成人男性と同じトイレに行かせることを推進すべきではない。そんなことは絶対に悪い、悪い考えだ」と投稿していた。(c)AFP/Jocelyne ZABLIT