■「お金はどうでもいい」

 フラマンさんには娘が3人いるが、誰もパン店を継ぐ気はなく、2年間ずっと店の買い手を探していたそうだ。そうした経緯もあり、だんだんとオーカンさんに譲ってはどうかと考えるようになったという。

 わずか1ユーロでの売却という決断について、フラマンさんはこう話している。「カネと命と、どっちが大事だい? お金はどうでもいいんだ。裕福なわけではないが気にしない。私は自由になりたい、そろそろ楽をしたいんだよ。それに、ジェロームが喜んでくれるなら…」

 フラマンさんは9月までオーカンさんを指導した後、店の鍵を譲って引退するつもりだ。それから先、「うまくやって行けるかどうかはジェローム次第だね」とフラマンさん。「彼は働き者で、成功にかける熱意がある。チャンスを与えられてしかるべき男さ」

 ドレッドヘアをさっぱりと刈り込んだオーカンさんは、新しい仕事を大いに楽しんでいる。「とにかく働きたい。時間も気にならないくらいなんだ」

 これまで祭事イベントで単発の仕事を少しやった以外、働いた経験はほとんどないというオーカンさんだが、これから自分が背負おうとしている責任の重さは十分に認識している。「100%仕事に懸けなくては。ミシェルは私に紛れもない贈り物をくれた。だから今度は、私がそれにふさわしい働きをしないと」

(c)AFP/Angela SCHNAEBELE