■過食症に自殺願望

 豊かな栗色の髪にはっとするような青い目で、たちまち人気モデルの仲間入りを果たしたドクセールさん。しかし徐々に過食症と自殺願望などの症状に悩まされるようになり、8か月後にはスポットライトから身を引いた。

 現在23歳になったドクセールさんはこう語っている。「誰も分かってくれませんでした。皆に夢みたいな生活でしょうねと言われたけれど、私はかつてないほど惨めな気持ちを味わっていたのです」

 同著でドクセールさんは、舞台裏の様子も明かしている。カメラの前では食べ物を口にしていたモデルたちが、ジャーナリストが退席した途端にトイレに駆け込み、全部吐き出していた。

 撮影時に用意されたのはフォトグラファーの食事だけ。あまりに空腹で疲れ切ったドクセールさんは、ファッションウィークのために訪れていたニューヨークの街を歩きながら気を失ってしまったという。

「モデルなんて、服のハンガー以外の何物でもありません」とドクセールさん。「1980年代のエリートモデルは、血の通った人間でした。でも今では、ブランド名より目立ってはいけないんです」

 ドクセールさんが著書を発表する1か月前、フランスの議会は極端に細身のモデルを禁止する法案を可決した。議場ではドクセールさんがつづった手紙が読み上げられ、賛成票を増やす一助になったとされる。

 このような法案が可決されたのは、イスラエルに続き世界でまだ2か国目。スペインやイタリア、英国、デンマークにも類似した法律は存在するが、厳しい規定は見送られた。一方、米国とベルギーでは、法制化自体実現していない。

 フランスで同法案が実際に法律として成立すれば、モデルたちはまず医師の許可を得なければならなくなる。またこれに違反したモデル事務所には、最高で6か月の禁錮刑や7万5000ユーロ(約1000万円)の罰金が科される可能性がある。

 フランスでは3万~4万人が拒食症に苦しんでいると推計されており、うち9割が女性だ。新たな法的措置により、モデルをより細く見せるために写真をデジタル加工した出版物についても、3万7500ユーロ(約500万円)以上の支払いが命じられる見通しだという。

 今ではサイズ38(日本の11号)に戻り、女優を目指しているというドクセールさん。「ランウェイに立っている女の子たちは、私がうそをついていると言うでしょうね」と語る。「モデルとして働き続けたければ、何も言えないはずです。業界内部には、絶対的なかん口令が敷かれていますから」(c)AFP/Anne-Laure MONDESERT