■水泳を必修化

 そこで政府は昨年、全就学児童生徒に水泳を必修とする方針を発表。同国史上最も野心的な大規模水泳プログラムを立ち上げた。

「5歳から17歳まで、4000万人近い子供たちに水泳を教える計画だ」と、同プロジェクトを管轄する教育省の高官はAFPに語った。オーストラリアなども水泳の練習を義務付けているが、バングラデシュほど大きな目標を掲げた国はない。

 設備の整ったスイミングセンターが不足しているため、政府は学校に近隣の池を使うよう指示。国連児童基金(ユニセフ、UNICEF)は巨大なゴムプールの提供に加え、レッスンの一部を資金・運用面で支援している。

 首都ダッカ(Dhaka)の肌寒い日曜の朝、12人ほどの児童がユニセフのプールに入っていた。水深は、子供たちがやっと足をついて立てる1.2メートル。

 1コースを泳ぎ切った10歳の女の子は、「前は水がすごく怖かった。でも今はここに来るのがすごく楽しい」と誇らしそうに語った。そしてまたすぐ折り返し、友人たちが待つ反対側のプールサイドまで泳いで行った。

■大惨事を招くフェリー事故

 とりわけ多くの市民が水死するのは河川を運航するフェリーが転覆事故を起こした場合だ。乗客が定員を大幅に上回っていることも珍しくない上、川幅が広い所もあり、多数の死者が出るのは避けられない。

 昨年2月には、パドマ(Padma)川でフェリーが貨物船と衝突して沈没し、少なくとも78人が命を落とした。

 そのパドマ川で、4歳の娘と一緒に18キロの区間を船で渡っていた22歳の女性は、「無事でありますようにと神頼みするしかない」と、母子共に泳げないことを認めた。二人が乗っている下層デッキには、数十人の乗客に対し、数着の救命胴衣しか用意されていなかった。

 現在、8歳の次男に水泳を習わせているアンワルさん。緊急事態に見舞われたとき、次男は自分の命だけではなく他の人たちも救えるはずだと期待している。

「息子には、溺れている人を見たら助けなさいと言ってある。誰もお兄ちゃんを助ることができなかったけれど、お前にはそうする義務があるって」(c)AFP/Sam JAHAN