■難民に門戸開き「メルケルママ」に

 ユーロ圏危機においては、疲弊しきった欧州諸国が頼りにしたのがドイツだった。メルケル首相は財政規律を説いて国庫の財布のひもをしっかりと締め、年金を心配するつましい市民らの不安を和らげた。

 急速な高齢化が進む中、経済大国の地位を維持し続けているドイツの国民は、メルケル首相を長く安定の礎とみなしてきた。有権者はそれに報いる形で、3回の選挙でメルケル氏に勝利をもたらした。世論調査の結果を見ても、同氏は最も人気の高い政治家として久しく不動の位置を占めている。

 しかし、普段はその慎重さと入念さで知られるメルケル首相に今夏、あるあだ名が付けられた。亡命申請者らにドイツの門戸を開いたことから、「Mama Merkel(メルケルママ)」と呼ばれるようになったのだ。

 この方針は同首相の10年の任期中で最大の賭けとなり、政治的遺産の形成に関わる問題を引き受けた格好となった。

 債務問題に苦しむギリシャに対してかたくなな態度を貫いたことから、ナチス・ドイツ(Nazis)の制服を着た風刺画が出回ったメルケル氏だったが、その一方、難民問題では人々の人間性と、欧州連合(EU)の他の加盟国の連帯感に訴える嘆願をしてみせた。

 独ニュース週刊誌シュピーゲル(Der Spiegel)は同氏をマザー・テレサ(Mother Teresa)になぞらえ、尼僧の服をまとった「マザー・アンゲラ」のイラストを掲載した。

 移民流入をめぐる国内からの批判に対してメルケル氏は、「緊急事態に直面し、親切心を表すことに対して謝罪が求められるようになったら、それは私の国ではない」と切り捨てた。

 週刊紙ディー・ツァイト(Die Zeit)はメルケル氏のこの門戸開放策について、「任期中で最も度肝を抜く、最も思い切った」決断だったと言えるかもしれないと指摘している。(c)AFP/Frank ZELLER