■性別越境の尊重は「自分自身の尊重」

 この女性は現在、同じ立場に置かれている人々の助けになりたいと、地元の遼寧(Liaoning)省錦州(Jinzhou)からインターネット上のネットワークを運営している。トランスジェンダー同士の出会いの場を提供するとともに、医師や精神科医、また離婚問題を抱えている人には弁護士を紹介している。「自分の問題を解決しようとしている間に徐々に、自分にとって安心できる環境を周りに築いてきた。勇気を出して自分が抱える問題を語ってみることだ。一人の医者が理解してくれなければ、別の医者に話せばいい。そのうち(分かってくれる)誰かが見つかる」

 中国では昨年、同国で最も有名な性科学者の李銀河(Li Yinhe)氏が、女性として生まれたが自分では男性だと自認しているパートナーと17年前から一緒に暮らしていると発表したことで、「トランスジェンダー」の存在に対する認識が一気に高まった。李氏はパートナーを「夫」と呼んでおり、性的指向の観点では両性愛者を自認している。

 同氏のカップルについて全国版の雑誌がとりあげると、中国共産党の機関紙・人民日報(People's Daily)もブログに「李銀河氏のような人々の選択を尊重することは、我々自身を尊重することだ」と記した。李氏の告白に対しこうした反応が示されたことは、ゆっくりとではあるが人々の見方が変わりつつある兆候だとも受け取れる。

 とはいえ、中国人医師や精神科医の多くは、トランスジェンダーの人々にどのように接するすべきかほとんど理解していないと、北京(Beijing)を拠点とするレズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー(LGBT)センターの辛穎(Xin Ying)代表は指摘している。

 辛代表の話では、身体的外見を変えた人々は就職や医療手術の際、あるいは電車に乗るといったことでさえ苦労する場合がある。また中国では身分証明証に登録されている情報を変更するための法的手続きが整っていない。当然、周囲からの目を恐れる気持ちは残る。女性として生まれたが男性になりたいというある人は家族に対し、レズビアンだとしか告白できなかったという。それ以上のことを説明した時の反応が怖いからだ。「両親に本当のことを話したら、病気だと思い込んで存在さえ認めてくれないと思う」(c)AFP