■村を変えたカイコ

「アディバシ(Adivasi)」とも呼ばれるインドの先住民は、長きにわたり同国の社会経済的階級の最下層に置かれ、貧困率や栄養失調率、短命率はすべて最低水準となっている。

 先住民たちは昔からビハール州や隣のジャルカンド(Jharkhand)州の深い森の中で養蚕に携わり、赤銅色で独特の風合いを持つタッサーシルクを生産してきた。

 最新技術の活用で、生産量は近年急増している。ムルムさんのように新たに養蚕に携わる人も増えており、貧困から抜け出す一助となっている。

 地元のNGOプラダン(Pradan)は、顕微鏡を使って死んだカイコを見つけ、除去する方法を教えるなど、養蚕訓練を行ってきた。プラダンのシャムシャド・アラムさんは「荒れ地にアルジュナの木を植える支援も続けている。その木でカイコを飼うんだ」と話した。インドは中国に次いで、タッサーシルクをはじめ、あらゆる種類の絹について世界第2位の生産国で、消費量も世界第1位だ。

 ビハールで活気づいているこの養蚕業は、かんがい整備が行き届いておらず、雨期でも雨量がさほど期待できないビハール州周辺で、先住民が伝統としてきた稲作を補完する役目も果たしている。

 村ではカイコの飼育以外に繭(まゆ)をゆでて、絹糸を取る作業に携わる人たちもいる。繭をゆでると柔らかくなり、楽にほぐれる。1枚のサリーを作るのに通常、必要な繭は250~700個だという。

 養蚕業者の一人、ボーラ・トゥドゥさんは、村の住民らが設立した協同組合からカイコの健康な卵を定期的に仕入れられるようになったおかげで、増収につながったと喜んでいる。

 トゥドゥさんは緑の蛍光色をした虫たちが食べている葉に、消毒液を吹きかけながらこう語った。「顕微鏡による卵のチェックは自分たちでやっている。悪い卵は捨て、良い卵を適正価格で買い入れる。そうすることで最大の利益が得られる。カイコが私たちの生活を変えてくれたんだ」(c)AFP/Abhaya SRIVASTAVA