【10月9日 AFP】ドイツ自動車大手フォルクスワーゲン(VolkswagenVW)は何年も前から、欧州連合(EU)本部のあるベルギー・ブリュッセル(Brussels)にロビイストを多数送り込み、排ガス規制厳格化の動きを緩和しようと水面下で熱心に働きかけていた。ブリュッセルにおけるロビー活動については活動家が以前から警告しており、自動車業界ではドイツが最大の影響力を持つが、EUの政策に圧力をかけているのはフランス、日本、米国の各メーカーも同様だ。

 EUの透明性登録簿(Transparency Register)への報告によれば、自動車業界はEUにおけるロビー活動で金融業界に次ぐ影響力を誇る。この報告に記載されたロビイストの人数は少なく見積もられていると考えられるが、それでもVWは43人をフルタイムで起用し、自社の利益保護のため活動させている。

 ロビー活動そのものは完全に合法だ。だが、非政府組織(NGO)「交通と環境(Transport & Environment)」のジョス・ディングス(Jos Dings)代表は、ブリュッセルでは数千人規模のロビイストが「水面下で暗躍している」と指摘する。

 欧州のロビー活動監視団体「Corporate European Observatory」によると、自動車業界は年間2000万ユーロ(約27億円)をロビー活動に費やしており、このうち半分がドイツのVW、ダイムラー(Daimler)、オペル(Opel)の資金だという。

 ロビイストたちは欧州委員会(European Commission)のあらゆるレベルで働き掛けを行っている。欧州委員たち、各委員の首席補佐官ら、さらにはEUの政策の詳細を検討する約700人の専門家グループまで、その活動の対象は幅広い。

■政策決定にもぐり込むロビイスト

「交通と環境」のディングス氏によれば、企業のロビイストたちはまず、何も規制を導入しないよう欧州委に働き掛ける。「だが、運悪く欧州委が規制に踏み切ると決断した場合、次の段階に移行する」。その戦術は、規制の適用を遅らせたり、規制レベルを弱めたりすることだという。

 また「Corporate European Observatory」によれば、欧州委は専任職員数が限られているため、外部の専門家の意見を求める傾向が強く、「これがロビイストたちにとってはまたとない好機となっている」という。たとえばVWは、4~5種類の専門家グループに息のかかった人物をもぐり込ませているという。

 欧州議会(European Parliament)のバス・アイクハウト(Bas Eickhout)議員(緑の党、Green Party)は、技術研究グループに国を代表する専門家として自動車業界の関係者が参加していると指摘。「非常に大きなグレーゾーンがある。彼らが参加しているのは、情報提供のためなのか、それとも意思決定の過程に関与するためか。技術的な情報のやりとりと政策決定が同時に進行している」と述べた。

 EU加盟28か国の代表が参加する大手企業の入札さえ、同じ場所で実施されるという。

■背景にアジアとの競争

 自動車業界のロビー団体が直面しているのは、アジアとの競争だ。そこには、アジアでは環境汚染をめぐる規制が欧州より緩いため高い利益が得られ、欧州の雇用を脅かしているという感覚がある。

 EUでは来年、新たな大気汚染検査が導入される予定だ。強力なロビー団体である「欧州自動車工業会(Association of European Automobile ManufacturersACEA)」は、VWスキャンダル発覚後、この新検査が始まれば「欧州は世界で唯一、実際の路上と同じ環境での排ガス試験が適用される地域になる」と述べている。(c)AFP/Marine LAOUCHEZ and Alex PIGMAN