■「青天のへきれき」だった盟友のドーピング違反

 室伏氏は、過去に2度のドーピング違反が発覚しているジャスティン・ガトリン(Justin Gatlin、米国)について、あまり同情を示していない。ガトリンは100メートルでボルトに次ぐ銀メダルを獲得したが、レース後に報道内容が「偏向的」として不快感を表していた。

「(ガトリンは)前に進みたがっていますが、簡単にはいかないでしょう」とする室伏氏は、2011年の第13回世界陸上大邱大会(13th IAAF World Championships in Athletics Daegu)を制し、アジア競技大会(Asian GamesAsiad)でも2個の金メダルを獲得した輝かしいキャリアを持っている。

「彼は常に過去を背負っていかなければならず、とても困難な状況に置かれています。メダルを手にすることでどうやって心の底から満足できるのか?」

「周囲は祝福も声援も送ってくれない。それは悲しいことだし、そんな人生はつらいものでしょう。そして孤独で、寝る前に部屋で一人きりで苦々しい思いをするんです」

「ドーピングをすると、選手として三つのものを失ってしまいます。成績、信頼、そして信用です。さらに自分自身の体も痛めつけてしまい、すべてを失うんです」

 40歳の室伏氏は、アヌシュの不正行為にどれほど傷心したか吐露した。

「選手は全員友人です。みんなで食事し、大会期間はほとんど一緒に過ごします」

「家族も子供もいるナイスガイに、いきなり不正行為が発覚したら青天のへきれきです。そういう選手は競技に出るべきではないです。腹が立ちましたし、本当に困惑しました」

「表彰台のてっぺんに立つ資格も、国歌を聞く資格もない。私はそのために人生をかけてトレーニングしてきたんですから」

「とはいえ、私はポジティブな面も見ています」とした室伏氏は、「教える立場ですから、次世代の選手が不正行為を起こさないようにしていきます。今回起きたことには意味があるのだと思っています」と語った。

 室伏氏はまた、「東洋哲学かもしれないですね」と肩をすくめながら、「何事にも常に意味はあるんです」と述べた。(c)AFP