【8月24日 AFP】東西ドイツを隔てていた「ベルリンの壁(Berlin Wall)」が1989年に崩壊したとき、世界の国境や境界線には16の「壁」しか存在しなかった。だがカナダ・ケベック大学モントリオール校(University of Quebec at Montreal)のエリザベス・バレ(Elisabeth Vallet)氏によれば現在、世界の「壁」は建設計画のものも含めて65に増加している。

 元来、そうした「壁」は政治的、象徴的な役割のものだった。しかし、難民の流入や安全保障などの問題で強硬姿勢を誇示したい国々の政府が「壁」を利用する例が増えていると研究者らはいう。

 ここでは最近のもので、特に影響の大きい10の壁を取り上げる。

■ハンガリー - セルビア

 今年に入ってから難民申請が8万人という記録的な数に達したことを受け、ハンガリーの右派政権は7月、セルビアとの国境に全長177キロの壁の建設を始めた。

■西サハラのモロッコ実効支配領域

 安全保障上の防護壁として世界有数の古い壁は、モロッコ政府が西サハラにおける自国の実効支配領域と独立を主張する武装組織ポリサリオ戦線(Polisario)の支配地域とを隔てるために建てた、全長約2700キロにおよぶ「砂の壁」だ。両者は西サハラの領有をめぐって、1970年代から戦闘と交渉を繰り返している。

■サウジアラビア - イラク

 サウジアラビアは台頭するイスラム過激派組織「イスラム国(Islamic StateIS)」対策として昨年、イラク国境にある高さ7メートルに砂を積み上げた既存の防護壁を全長900キロのフェンス、監視塔78基、司令拠点8か所、即応拠点32か所で強化し、移動偵察車10台、早期介入部隊3隊を導入した。

■イスラエル-パレスチナ自治区ヨルダン川西岸

 イスラエルがパレスチナ自治区ヨルダン川西岸(West Bank)に分離壁の建設を始めたのは2002年。イスラエル側はパレスチナ武装勢力の攻撃を阻止するためと主張しているが、実際には国際法に違反した西岸での土地接収と境界線の既成事実化に利用していると批判されている。

■米国 - メキシコ

 1990年代、当時のビル・クリントン(Bill Clinton)米大統領の下でメキシコとの国境警備を強化する本格的な取り組みが始まった。

 その後、国境がほころびだらけでは国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)――現在ならばIS――などの侵入を容易にするとの懸念から、米国における国境の「壁」は強化の一途をたどっている。

 7月には米次期大統領選で共和党指名候補に名乗りをあげている富豪のドナルド・トランプ(Donald Trump)氏が国境沿いの壁の建設資金をメキシコ政府にも払わせると発言したことから、ここ数週間は国境問題が重要な政治課題の一つに浮上している。

■ギリシャ - トルコ

 トルコとの関係改善と国境沿いの地雷が除去された「副作用」として、ギリシャは自国経済が崩壊にある最中に、欧州を目指す難民や移民の主要な玄関口となった。このため2012年にエブロス(Evros)川沿いのトルコ国境に全長10キロ超の壁を建設している。

■北アイルランド(Northern Ireland、英国)

 北アイルランドの首府ベルファスト(Belfast)には労働者階級のプロテスタント系住民とカトリック系住民の居住地区を隔てる「平和の壁」が99か所にあり、最古のものは1969年までさかのぼる。特に「壁」が集中しているのは、98年の包括和平合意「聖金曜日の合意(Good Friday Agreement)」まで続いた北アイルランド紛争「トラブルズ(Troubles)」時代に「殺人通り(murder mile)」と呼ばれた市北部。壁は和平合意後も規模、数ともに増大している。

■スペイン - モロッコ

 北アフリカ・モロッコにスペインが領有する飛び地セウタ(Ceuta)とメリリャ(Melilla)の国境にはハイテク技術を駆使した防御フェンスが設置されている。フェンスを突破しようとした多くは死亡、モロッコ軍に射殺される場合もある。

■インド - バングラデシュ

 インドは移民流入を制限する目的で1993年からバングラデシュを囲むような形で徐々に国境線に鉄条網フェンスを築いてきた。正確な国境線をめぐる議論は先延ばしにされ、10万人もの人たちが公的福祉がない状態で緩衝地帯に放置されている。

■キプロス - 北キプロス(トルコ)

 キプロス島は1974年のトルコ軍侵攻以来、中心都市ニコシア(Nicosia)のある南部がギリシャ系のキプロス共和国、トルコ系住民の多い北部が北キプロス・トルコ共和国として壁によって分断される状態が続いている。(c)AFP/Eric RANDOLPH