■30年ぶりにサイの足跡

 野生動物の保護団体「ノーザン・レンジランド・トラスト(Northern Rangelands TrustNRT)」で保護活動の責任者を務めるイアン・クレイグ(Ian Craig)氏は「サイがいなくなっていたこの土地で30年ぶりにサイの足跡を見つけたときのうれしさ?とても言葉にはできませんよ」と語る。同氏は、サイをレワ野生動物保護管理公園(Lewa Wildlife Conservancy)からセラ自然保護トラスト(Sera Conservancy Trust)へ移動する計画の立役者でもある。

 セラ自然保護トラストはNRTが地元コミュニティーから信託を受けた土地に設立した33の保護区の一つ。柵に囲まれた1万700ヘクタールの土地にクロサイ21頭を住まわせる計画だ。総面積34万5000ヘクタールの同保護区を59人のレンジャーが巡回している。

 セラ自然保護トラストの管理責任者ルーベン・レンディラ(Reuben Lendira)氏にとって野生動物保護は別の目的を達成する手段でもある。「野生動物保護によって雇用が生まれ治安も良くなる。セラは強盗が多い場所だったが、われわれが警備するようになってから、野生動物にとっても人間にとっても状況は大いに改善した。観光客が増えて収入も上がり、セラ付近のコミュニティーの暮らしは良くなった」

 今年5月に行われたクロサイの移動は、絶滅の危機に瀕した動物の繁殖と広大な生息地の確保を目指すケニアの取り組みが成功した証しとして賞賛されている。

 現在クロサイは世界に約5000頭しかいない。アジアではクロサイの角に1キログラム当たり6万5000ドル(約800万円)以上の値がつく需要があり、クロサイの生存が脅かされている。2011年にはニシクロサイの絶滅が宣言された。

 シロサイは主にアフリカ南部で2万頭前後が生息しているとみられるが、シロサイの亜種キタシロサイは5頭しか残っていない。5頭のうち雄は1頭だけだ。