■むち打ち刑の見学を奨励

 むち打ち刑は2005年に始まり、以来、増え続けている。今年だけでもこれまでに、ざっと100人のアチェ人がむち打ち刑に処された。

 欧米の基準から見れば、行き過ぎだと思われる規定もある。ある地域では、女性はバイクに横向きになって乗らないといけない。両足でまたがる姿勢はわいせつだとみなされるからだ。結婚していない男女が一緒にバイクに乗ることを禁じる規定もある。パンクロッカーの若者たちは再教育施設に送られる前に、群衆の前で頭をそられ、ピアスも外された。通常の警察から独立しているシャリーア警察は「不道徳行為」を行っている人はいないか見張るために、夜な夜な市内をパトロールしている。

 公開むち打ち刑は今やアチェの他の地域では一般的だが、州都バンダアチェでは今回初めて行われた。約1000人がこの恐ろしい光景を見ようと集まった。バンダアチェには娯楽施設がほとんどなく、地元当局は住民に対し、むち打ち刑を見に行くよう積極的に促した。

 白衣を着た学生たちが護送車で連れてこられると、街の広場は騒然とした。「罪人」たちに野次が飛ばされる。法では公開刑への参加を禁止されているはずの子供たちが、視界を求めて周りの人を押しのける。写真を撮ろうとする人々が携帯電話を高く持ち上げる。

 シャリーア警察の女性警官たちが「罪人」の両脇を抱えて前へ連れ出し、ひざまずかせ、検察官が罪状を読み上げる。頭からつま先まで黒い布をまとい、目だけを出したマスクをかぶった「アルゴジョ」と呼ばれるシャリーア警察の専門官が、長さ1メートルほどのヤシでできたむちを持って前に出た。

 アルゴジョたちは長年、自分の肩より高くむちを振り上げることはできなかった。だが2013年に法律が改定され、今ではより激しいむち打ちを許されるようになっていた。

 ひざまずき恐怖におののく学生たちは、むちが振り下ろされるたびに目を固くつぶり、顔をゆがめるより他にできることはほとんどない。アルゴジョは群衆の声を受けて、さらに打つ手に力を込める。犯した「罪」より罰が軽くみえれば、群衆の間に失望が広がる。

 結婚前に異性と親しくした者に対するむち打ちは3~9回、賭博を行った者には6~12回。飲酒は40回だ。公衆の場でキスをしたカップルは最大45回、同性同士で性行為を行えば100回のむち打ちに処される可能性がある。10月にアチェ議会で新たな項目が承認されれば、むち打ち刑の対象となる行動の範囲はさらに拡大されるだろう。