■唯一知る暮らし方は遊牧生活

 遊牧民一族がニューデリー郊外30キロから70キロの間で、3つの場所を移動していく過程を追った。日中に6回、夜間のたき火を1回取材して、彼らの語を聞いた。

 その一族は、羊毛やオスの子羊を売ってやりくりしていた。半年間で収入は25万ルピー(約50万円)ほど。それをみんなで分けて生活する。男性が放牧や乳搾りを担当し、女性は料理や水汲み、バター作りなどをする。子どもたちは大人の近くで、木登りをしたり羊を追いまわしたりして遊んでいる。彼らは野宿し、立ち入ることのできる水場を見つけたときにだけ沐浴や洗濯をする。

 私は子どもたちについてもっと知りたいと思った。特に少女たちは教育を受けたいと思わないのか、と。だが、故郷で娘を学校に通わせているという女性以外は、誰も勉強に関心がなかった。逆に、なぜ学校に行きたいなんて思うのか、と聞かれた。誰が羊の世話をするのか、と。

 男性たちと話をしていても、遊牧生活が彼らが思い描く唯一の暮らし方なのだという印象を受けた。ただし、必ずしもそれを選択したわけではない。稼ぎが少なく借金を抱えている者も何人かいた。

 遊牧民たちは、自分たちはまったく教育を受けたことがないという。日雇い労働者として働いたり、建設現場で働いたりするスキルも、農業の基本的な知識もないと語る。

「何世代もの間、私たちは羊で生計を立ててきた」とパドマ・ラムさん(65)は、赤いターバンを巻き直しながら言った。「私たちは読み書きができないし、子どもたちもそうだ。これは、私たちが知るたった一つの生き方だ」

 夜眠らずに羊たちを外敵から守ることと、1日に50キロの距離を歩くことは得意だと語る者もいた。すると、だったら警備員や警官になったら優秀だろうと冗談をいう者もいた。