■「セックス・マン」登場!

 一方、私たちは何人かのポルノ女優たちと「黒一点」しみけんさんの独占取材の機会も得られた。

 私は「熟女」ジャンルの39歳の女優、白木優子(Yuko Shiraki)さんの写真撮影の現場に行った。女優の着替え用の部屋は極端に暖かく、私は自分が着込みすぎているように感じた。彼女はバスローブにスリッパという姿だった。以前は、冷凍魚を運送するトラックの運転手として働いていたという。「今の男性たちは男らしさが薄れ、セックスに対する興味もあまりない」と彼女は語った。ポルノ男優の不足は、社会に「草食男子」が増えているせいだという。

 次にインタビューしたのは、「Lカップ」のバストで有名な沖田杏梨(Anri Okita)さんだ。ここは視線に気をつけないといけない。ポルノ業界では女優が約1万人いるのに対し、なぜ男優は70人ほどしかいないのか尋ねると「生理学的なもの」だからと、喉を鳴らすような声で彼女は答えた。「しみけんは超人よ」。なるほど、並みの日本人男性ではかなわないということだ。

「超人」はビンテージのスポーツカー、デロリアン(DeLorean)に乗って登場し、男性器の形をした名刺を差し出すと「私はセックス・マンです!」と自己紹介した。正面に「セックス・インストラクター」と大きく書かれたTシャツを着た、しみけんさんの大胆さは尊敬に値する。それに8000人以上の女性と寝てきたと語る彼に向かって、異論など唱えまい。

 取材は2時間に及んだ。その大半はAFPのような「家族」向けニュースでは使えない内容ばかりだ。それでも独占企画として十分な話が聞け、いっそう真に迫ることもできた。「男は他の俳優と比べられたくないもの」だと、しみけんさん(35)は肩をすくめた。「それに今ではソーシャルメディアですぐに身元がばれる。私は撮影中に母親が入ってきたことがあった。あれはやばかった」

 カメラマンがため息をもらして「カット!」と言った。しみけんさんがまたも放送できない言葉を使ったからだった。

 さあ、これで終わった、いつものスポーツの取材に戻れる(まるで前世でやっていたことのように感じ始めていた)と思ったとき、ハードコアなSMポルノを専門とする会社から電話をもらった。「月曜に撮影するから、午後9時に来てほしい」と。

 私たちはとても暗い建物に入り、6階にあるセットへ向かった。ただ監督に挨拶をするためだけにと思っていたのだが……。50代の俳優が青いガウンを着てたばこをふかしていた。天井は低く、セットには人が大勢いた。部屋はひどく臭かった。すぐそばで女優がバスローブを脱いだ。掛け声がかかる。「はい、じっとして息をして」

 あと30秒で撮影開始だった。「カメラ、ライト、アクション!」。ベテランのAFPカメラマン、津野義和は監督に向けてシャッターを切り続け、私たちの映像カメラマンは緊張しながら構えていた。さまざまな重装備のSMグッズが用意されていた。私は落ち着かなくなった。そしてもう一度、あの言葉がひらめいた。「私は書くだけだから、外で待っているよ」(c)AFP/Alastair Himmer


この記事は、AFP通信東京支局の特派員アラステア・ヒマーのコラムを翻訳したものです。