【5月20日 AFP】バングラデシュで人身売買業者に誘拐され、無理やり船に乗せられたアブサルディンさん(14)は数週間の航行で、餓死しかけたり、仲間を亡くしたりと悪夢のような体験をした──。

 アブサルディンさんは、今月15日にインドネシア沖で沈没しかけていた難民船から救助された1人。この船には、ミャンマーで迫害されているイスラム系少数民族ロヒンギャ人とバングラデシュ人ら数百人が乗っていた。

 アブサルディンさんを含む、救助された人々の一部は、インドネシアのアチェ (Aceh)州ランサ(Langsa)にある施設に収容された。痩せ細ったアブサルディンさんは2か月に及ぶ苦難について詳細に語り、「家に帰りたい、母の所に戻りたい」と訴えた。

 同日、この海域で救助された難民は900人に上る。タイ政府は人身売買に対する取り締まりを強化しており、これが東南アジア地域で続いている難民危機の一因となっている。マレーシアとインドネシアでは最近、難民が多数漂着しているが、海上で漂流している人も数千人に上るとされる。こうした事態を受け、国際社会は東南アジア諸国に対して迅速な措置を取るよう強く求めている。

 アブサルディンさんの乗っていた船は、密航業者によって途中で放棄された。その後は、難民船の受け入れに消極的なマレーシアとインドネシアがいずれも寄港を拒み、領海から追い出したため、船は海上を漂流するほかなかった。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(Human Rights WatchHRW)はこれを「人間ピンポン」だと非難している。

■飲み水は「海水」に

 救助された人々の話では、航行中に水死したり、暴行死したりした人は少なくないという。物資が乏しくなると、バングラデシュ人とロヒンギャ人の間で激しい衝突が起き、大勢の人が海に放り出されたほか、身の危険を感じて自ら海に飛び込む人もいた。ロヒンギャ人とバングラデシュ人はいずれも、相手が最初に攻撃してきたと主張している。

 アブサルディンさんによると、同じく誘拐されて船に乗せられた親族2人も船で死亡している。食べ物を求めた親族に密航業者らが暴力を振るったため、別の親族がそれを止めに入ったところ、2人とも海に投げ出されてしまったという。アブサルディンさんは「『助けて』と叫ぶ声が聞こえたけれど、僕たちにはどうすることもできなかった。泣いて、祈ることしかできなかった」と当時を振り返った。

 アブサルディンさんの苦難は親族や友人らと一緒に訪れたミャンマーとの国境沿いの町テクナフ(Teknaf)で始まった。滞在先で朝食を食べていた際に見知らぬグループから庭へ出るよう指示され、そこで身柄を拘束された。その後、暴力行為を振るわれ、超満員の難民船に押し込まれたという。最初は1日2回、米と水を与えられたが、途中からは、それがビスケットと海水に変わった。

 アブサルディンさんは「100人くらいが餓死したと思う。遺体は海に投げ捨てられた」と船上での状況について語っている。(c)AFP/Nurdin Hasan