■正確な医師は3人に1人の公的医療

 多くのカンボジア人にとって、モンさんのような医師は最も安く治療を受けられる、ほとんど唯一の選択肢だ。「私は医療技術を人生という大学で学んだ」とモンさんは語る。当局に医療行為を禁止されたことは一度もないという。

 皮肉にもモンさんが医療を学んだのは、カンボジアの医療制度を破壊したまさにポル・ポト派からだった。モンさんは1974年に、政権を掌握する直前のポル・ポト派に兵士として加わった。処刑や飢餓、強制労働などで最大200万人といわれるカンボジア人が命を奪われた後、79年にポル・ポト政権が倒れると、モンさんは多くの兵士と一緒にタイと接する国境地帯へ逃れた。そこが医療技術を学んだ場所だった。最初はポル・ポト派の衛生兵から、その後は赤十字(Red Cross)の外国人医師たちから学んだ。

 最初は負傷兵への注射から教わったと、モンさんは振り返る。今ではマラリアや腸チフスなどの病気から、傷口の縫合までさまざまな治療ができる。いつも治療に行く村のウオン・スレアンさん(35)は、村民は皆、モンさんが医師免許を持っていないことを知っていると語る。「でも私たちは彼を信じている。いつも新しい注射針と注射器を使ってくれる」

 治療が必要な際に最初の窓口である公的な保健センターの治療の質が低いことも、モンさんのような医師が信頼される一因だ。WHOによれば、カンボジア全土の保健センター1万1000件のうち、43%が医師や薬品、医療機器の不足のために十分なサービスを提供できていない。

 また世界銀行の昨年の調査によれば、カンボジア地方部の保健センターの医師で正確な診断ができるのは、3人に1人しかいないという。さらに診断ができる医師のうち、適切な薬を処方できるのは、わずか17%だという。(c)AFP/Suy SE