■激混みでも笑顔、スパイダーマンさながらの乗客も

 ついに電車が駅を発車し、ゆっくりと私の待つほうへ進んできた。線路上にいた私に向かって、運転士が「道を開けろ」と言うように警笛を鳴らす。私を見つけた乗客たちは、手を振ってきた。これぞインドだ。この国の人たちはカメラを見たら、はしゃがずにいられない。

 すぐに私は線路からどき、通り過ぎていく列車を撮影した。その中の1枚に、列車後部にしがみついている男性の姿が写っていた。まるでスパイダーマンだ。私のお気に入りの写真だ。

 乗客たちの笑顔を見ていると、彼らはこうした危険な乗り方にも満足しているように思える。良くも悪くも、それがインド人だといえる。彼らの適応力はすごい。

 乗客は低~中間所得層で、恐らく学生が多い。少なくとも富裕層でないことは間違いない。毎朝、決まった時間までに市内へ行かなければいけないが、超混雑列車に乗るよりほかに選択肢がない人たちだ。ロニ駅は特に混雑すると以前から聞き及んではいたが、目の当たりにしたのは初めてだった。

 ただ仕事に行くためだけに、車両の屋根によじ登る――私は、こんな列車には絶対に乗らない。仕事で写真を撮るためなら別だが、それでもすぐに降りられるという保証がないと嫌だ。

 デリー都市圏はこの10年で飛躍的に発展した。地下鉄網が整備され、交通の便は格段に良くなった。だが、乗客であふれた列車を見る限り、改善すべき点はまだたくさん残っている。もっと多くの列車が必要だ。

 政府は、鉄道網の整備に1370億ドル(約16兆6000億円)を投じると発表した。そのうち幾らがデリー都市圏に当てられるかは分からないが、首都圏の鉄道網が早く近代化されることを願う。

 このような写真が、早く「過去のもの」となってくれるように。(c)AFP/Money Sharma


この記事は、AFP通信ニューデリー支局の写真記者モネイ・シャルマが書いたコラムを翻訳したものです。