【2月13日 AFP】低空を飛ぶ巡航ミサイルなどをレーダーで探知する気球型レーダーシステム「JLENS」の試験運用が昨年12月、米首都ワシントン(Washington D.C. )から80キロ離れたメリーランド(Maryland)州で始まった。

 JLENSと呼ばれる「統合対地巡航ミサイル防衛上空センサーシステム(Joint Land Attack Cruise Missile Elevated Netted Sensor System」は試験運用の3年の間、米首都周辺で監視の目を光らせるが、付近の住民からはプライバシーの侵害を懸念する声も聞かれる。

 米首都圏の防空作戦司令官フランク・ライス(Frank Rice)大佐は、AFPの取材に対し「レーダーの監視範囲は半径485キロ。テキサス州と同程度の広さだ。これにより、さらに広い範囲で脅威となる対象を監視できる」と説明。「上空からの監視が可能で、それをもっと大規模な防空システムに統合することができる」と加えた。

 ヘリウムガスが充填され、下面にレーダーを搭載した気球は、スーパー繊維でできた1本のケーブルで地上とつながれている。現在稼働しているのは1機だが、近い将来には2機1組で運用され、どちらも連続30日間、浮遊状態を維持できる。

■半径5キロの追跡情報と高解像度ビデオを統合

 しかし、誰もがJLENSに満足しているわけではない。地元住民はソーシャルメディア上で、この偵察機は360度の角度からレーダーによってプライバシーを侵害する監視装置ではないかと大きく疑問視している。ワシントンを拠点とする電子プライバシー情報センター(Electronic Privacy Information Center)のジンジャー・マッコール(Ginger McCall)氏はAFPに「空を見上げると誰かが、何かが、自分を見つめ返してくる。人間はこうしたことには特別な直感的反応を示すものだ」と語る。

 同センターが米情報公開法を通じて入手した数千ページの関連文書を精査したところ、JLENSが地上の監視に使用されないという保証はないことが判明した。それどころかこの技術は、半径5キロ以内の人間や車両を追跡、特定するために「極めて高解像度のビデオを統合するよう設計されている」と説明された項目を見つけたと、マッコール氏は明かした。

 一方、米国防総省は、JLENSが飛行していない物体を監視する能力を備えているとの見方を強く否定。JLENSは「人間を捉えることはできず、カメラも搭載していない」と主張する。

 JLENSは、他の高額な防衛技術プロジェクトとの競争にさらされ、資金調達面でも危機に直面している。米会計検査院(GAO)は昨年、これまでJLENSプロジェクトにかかっている費用は総額28億ドル(約3300億円)と推計した。米議会は15年予算でJLENSプロジェクトに割り当てられるはずだった予算5400万ドル(約65億円)を半分に削った。

 JLENSプロジェクトの主要な受注企業は皮肉にも米軍の巡航ミサイル「トマホーク(Tomahawk)」を製造する軍需大手レイセオン社(Raytheon)だ。同社はウェブサイトで「固定翼偵察機の運用コストは同期間使用した場合、JLENSを500~700%上回る」と述べ、JLENSのコストは比較的、低いとしている。(c)AFP/Robert MACPHERSON