【1月20日 AFP】風刺週刊紙の襲撃に始まったフランスでの一連の事件を受け、「痛みの共有」を表明するために16日に同国を訪れたジョン・ケリー(John Kerry)米国務長官──出迎えたフランソワ・オランド(Francois Hollande)仏大統領と心のこもった抱擁を交わそうと両腕を大きく開いたが、そこで露呈したのは、文化差から生じる「ぎこちなさ」だった。米国人には当たり前の抱擁、いわゆる「ハグ」という習慣が、フランスにはないため、同国を訪れる多くの米国人がこのぎこちなさを感じるという。

 今回の訪仏に先立ち、ケリー長官は「米国式の愛情表現」を予定していることをあらかじめ先方に伝えてあった。「今回の訪仏の狙いは基本的に、フランスと強いハグを交わし、同国と、そしてつらい思いをしているわれわれの友人らに対し、米国民の愛情を示すことにある」と訪問の前日に語っていた。

 ケリー氏の言葉を聞いてまず頭を抱えたのは、仏メディアだった。「ハグ」という言葉を的確に翻訳するには、どういう言葉を使うべきか悩んだのだ。

 意味の近いフランス語に「カラン(calin)」がある。しかしこれは英語でいう「カドル(cuddle、訳注:抱く、抱きしめる)」に近い言葉で、恋人や親子の間でしか通常は使われない。その他の単語や表現もなくはないが、恋愛感情を伴うイメージを持つものばかりだ。結局、大半のメディアが、相手に祝意を表すため首に両手をまわすしぐさの「アコラード(accolade)」という言葉を当てることに落ち着いた。

 しかし、友人や同僚らの間でも、たとえ初対面であっても頬と頬を合わせて軽いキスを交わす「bise(ビーズ)」という習慣がある国の大統領にとって、これはそう簡単な話ではなかった。

 両者の対面シーンを振り返ってみる。高身長のケリー氏が足早にオランド氏の元へ歩み寄り、数メートル手前でケリー氏がまず両腕を広げた。オランド氏はそれに応えて同じように両腕を広げ、それからケリー氏の両手を握り締めた。そこでケリー氏が軽い抱擁の姿勢に入ったところ、オランド氏は頬へのキスだと思い込み「ビーズ」の態勢を取った。

 ケリー氏はオランド氏からのキスを右頬に受け、再び握手。その後ぎこちなくお互いの体に腕をまわすような格好で、2人はエリゼ宮(Elysee Palace、仏大統領府)への階段を上っていった。

 結局、米のハグも仏のビーズも中途半端に終わった。文化差が見事に露呈したハプニングだった。(c)AFP/Fran BLANDY