■幹細胞の分裂

 がんを新たな観点から考察することを目指した研究チームは、一生の間に人間の幹細胞が平均でどれだけ分裂するかを調べるため、関連する科学文献を調査した。

 この自己再生プロセスは体内で自然発生し、特定の臓器で次々に死んでいく細胞を補う助けになる。だが、変異として知られるランダムな誤りが幹細胞で生じると、がんが発生する場合があることは長年、研究で明らかになっていた。

 今回の研究では、このプロセスに起因するがんがどの程度の頻度で発生するかを、家族歴や環境的要因と比較対照する試みを初めて実施。その結果、研究の対象とした31の組織で発生する約22種のがんは、ランダムな変異に原因をさかのぼることができることが判明した。

 その他の9種をめぐっては「変異の『不運』で予測されるよりも発生率が高く、変異の不運と環境的または遺伝的な要因との相乗効果に起因するものと思われる」と同大は指摘している。

 この9種には、遺伝性のがんとして知られている一部のがんに加え、喫煙や日光にさらされることに影響される肺がんと皮膚がんが含まれている。

 この研究結果が意味することは、がんの早期発見とがんの拡散につながる有害な偶然事象を事前に検出するための研究に、さらに重点的に取り組む必要があるということだ。

 ジョンズホプキンス大の医学部とブルームバーグ公衆衛生学部(Bloomberg School of Public Health)に所属する生物数学者、クリスチャン・トマセッティ(Cristian Tomasetti)助教は「生活様式や生活習慣を変えることは、ある種のがんを回避するのに大きな助けになるが、その他の多種多様ながんに対しては、これは同様に有効とはいえないかもしれない」と話す。

「その種のがんを早期に、治癒可能な段階で発見する方法の探究に対して、さらに多くの資源を投入するべきだ」

 論文の執筆者らによると、乳がんと前立腺がんが今回の研究対象から除外された理由は、人体のこれらの領域で起きる幹細胞分裂の速度に関して、信頼性のあるデータが科学文献に示されていなかったためだという。(c)AFP