【1月2日 AFP】世界に名高いフランスの貴腐ワイン、ソーテルヌ(Sauternes)の産地を、高速鉄道TGVの新線敷設計画が揺るがしている。危機感を抱いた生産者たちは、団結して立ち上がった。

 ソーテルヌはフランスでは、フォアグラとともにクリスマスや祝い事の食卓には欠かせない存在だ。古くから英王室にも好まれてきた甘い味わいは、水温およそ13度と冷たいシロン(Ciron)川がもたらす朝霧によって生み出される。

 南仏ボルドー(Bordeaux)近郊に広がるソーテルヌの温暖な平地を朝霧が覆うと、収穫前の白ワイン品種のブドウの実にボトリチス・シネレア菌というカビが生える。「貴腐菌」の別名で知られるこのカビが皮に繁殖したブドウは黄金色に実らず、紫色のしなびた状態になる。こうした「貴腐ブドウ」は、糖度が非常に高く、フルーティーで蜂蜜やナッツの香りも伴った複雑な風味を醸し出す。ソーテルヌが世界中のデザートワインの代表格とされるゆえんだ。

 ボルドーとそのさらに南方の町ダクス(Dax)とを結ぶTGVの新線は、ソーテルヌのブドウ畑を横断するわけではないが、シロン渓谷を通る計画になっている。このため、ワイン生産者たちは、貴腐ワイン造りに欠かせない繊細な気候に影響が出るのではないかと危惧している。

■ 川の水温上昇に不安

 ボルドー地方の甘口ワイン生産者組合のフィリップ・デジャン(Philippe Dejean)組合長は、2027年開通予定のTGV新線計画について「非常に懸念している」と述べた。

 ソーテルヌ屈指のワイン醸造所、シャトー・ギロー(Chateau Guiraud)のグザビエ・プランティ(Xavier Planty)支配人も、次のように警告する。「シロン川の水温が上がれば、朝霧が発生しにくくなる。何もかもが台無しになってしまう危険は冒せない」

 反対派は、TGV計画について調査するよう要求。欧州司法裁判所(European Court of Justice)への提訴も辞さない構えを見せている。

 現時点では、高速鉄道敷設がワイン生産地にもたらす影響をめぐっては「何も対応がされていない」と、ボルドー・ワイン生産者協会のベルナール・ファルジュ(Bernard Farges)会長は不満を口にした。

 TGV計画を進めるフランス鉄道線路事業公社(RFF)は「もちろん、(ワイン生産環境に関する)影響調査は実施した」と説明しているが、反対派は納得していないようだ。地元選出のジル・サバリ(Gilles Savary)下院議員によると、反対派にはワイン生産者のほか、地元議員や環境活動家、森林管理の専門家、猟師など幅広い層の人々が名を連ねている。