【11月2日 AFP】ぎらぎらと輝くカジノの光、砂浜、大西洋を眺めながらジョギングできる板敷の遊歩道――アトランティックシティー(Atlantic City)は30年近くもの間、人気のリゾート地だった。だが、米東海岸のギャンブル産業を独占してきたニュージャージー(New Jersey)州の「至宝」は今、苦境に陥っている。

 ニューヨーク(New York)から車で2時間。ボードゲーム「モノポリー(Monopoly)」の盤面にもなり、米人気ドラマシリーズ「ボードウォーク・エンパイア 欲望の街(Boardwalk Empire)」の舞台ともなったこの街では、今年に入って既に4軒のカジノが閉店した。

 1月13日に閉店した「アトランティック・クラブ(Atlantic Club)」に続き、8月末で「ショーボート(Showboat)」が、9月4日には「レベル(Revel)」が営業を終了。同16日には「トランプ・プラザ(Trump Plaza)」が、1984年から掲げてきた看板を下ろした。そして、11月には「トランプ・タージマハール(Trump Taj Mahal)」も閉店する予定だ。

 住民の4分の1が貧困ライン以下で生活するアトランティックシティーで、カジノで働く人は3万2000人。そのうち8000人が職を失った。

 背景には、近隣のメリーランド(Maryland)州やペンシルベニア(Pennsylvania)州、ニューヨーク(New York)州にできた新しいカジノホールとの競争がある。衣料・サービス産業労組「ユナイト・ヒア(Unite Here)」第54支部のロバート・マクデビット(Robert McDevitt)支部長によれば、東海岸北部ではカジノがかつての6倍に増えた。

■地域経済へのドミノ倒し

「失業問題だけでなく、カジノに頼っている流通やサービス業にも影響は波及するだろう」と、ストックトン大学(Stockton College)ロイド・D・レベンソン賭博・サービス業・観光研究所(Lloyd D. Levenson Institute of Gaming, Hospitality and Tourism)のイジー・ポスナー(Izzy Posner)所長は懸念する。

 ポスナー氏によれば、アトランティックシティーのカジノ収益は、2006年のピーク時には年52億ドル(約5800億円)に上った。しかし、その後、より大都市に近い近隣州のカジノとの競争が激化。ニュージャージー州賭博規制局によると、今年1~8月のカジノ収益は、前年同期の19億7000万ドル(約2200億円)から6.3%縮小し、18億4000万ドル(約2000億円)にとどまっている。

 遊歩道で客待ち中のハイチ人だという20歳の人力車の車夫は、「明日で廃業だ。別の仕事を探すよ」と言った。遊歩道沿いで20年営業してきたというパキスタン人の衣料店店主も、今年に入って売り上げが3~4割落ち込み、家賃の値下げを交渉していると語った。「あちこちで店じまいしている。(街を)出ていく人も多い」

 閉店のときを数時間後に控えた「トランプ・プラザ」では、80年代のレトロな花柄絨毯(じゅうたん)が敷かれた洞窟のような店内にシュールな雰囲気が漂っていた。24時間オープンのカフェには、顧客に感謝と別れを告げるメッセージが張られていた。レストランは全て閉まり、残っている数少ない客は悲しそうだった。

 ルーレット係のミシェル・ニデッガー(Mychele Nydegger)さん(62)は、不安を隠せずにいた。「24年間ここで生きてきた。人生のほぼ半分、30年働いてきた人もたくさんいる。なのに、今になって追い出されるなんて。皆、怒っている」。別の州に移住してまで仕事を探すには、年を取りすぎたという。

 カジノから解雇された人々のための相談窓口を開設した「ユナイト・ヒア」のマクデビット支部長は、失職者の3分の1が引退し、3分の1が別の地域へ引っ越し、残る3分の1がサービス産業での再就職を目指すとみている。

 街の小さな博物館には、海を見下ろす大型ホテルが次々と建ち、娯楽産業が栄えていった20世紀初頭の写真が誇らしげに飾られている。博物館員のベス・ライアン(Beth Ryan)さんは「時に、変化はポジティブなもの。過去を見れば、この街はいつでも新しいことに挑戦してきた」と言いながら、「AC(アトランティックシティー)は信じることを止めない」という言葉が刻まれたピンク色のマグネットを来館者に手渡した。(c)AFP/Brigitte DUSSEAU