【10月17日 AFP】「パンク界のゴッドファーザー」、イギー・ポップ(Iggy Pop、67)が13日、若いミュージシャンたちに向け、音楽とはそもそも金を儲けることではないので金銭的な期待は高く持たず、業界の変化にも焦ることはないとアドバイスした。

 イギー・ポップ・アンド・ストゥージズ(Iggy and the Stooges)のフロントマンとしてデビューし、ステージ上では上半身裸で汗まみれになって歌う激しいパフォーマンスで知られ、1977年のソロアルバム『ラスト・フォー・ライフ (Lust for Life)』と同名のヒット曲ではパンク全盛時代のエネルギーをそのままとらえたイギーはこの日、BBCラジオの伝説的DJ、故ジョン・ピール(John Peel)の名を冠して毎年同局が開催している講演会で初めて講師役を務めた。

 ストリーミング放送を視聴した若いミュージシャンたちから集まった「音楽で食べていけない」という声に対し、そうした心配は目新しいものではないとイギーは答え、自分のキャリアを通じて常に音楽業界がアーティストよりも利益を重視するのを見てきたと述べた。

「もしも売り上げから実際に手にした分だけで生活するなら、今でもステージとステージの間にバーテンもしなくちゃならないだろうね」。英マンチェスター近郊サルフォード(Salford)のフェスティバル会場の聴衆に対し、イギーは米中西部訛りの英語でジョークを効かせながら率直に語る。「個人的に、何であってもいくら払ってもらえるのかは、あまり心配しないんだ。そもそも最初から、たくさんもらえるのを期待したことがないからね。音楽業界全体がそういう期待で一杯になってしまった」

「君がもしエンターテイナーならば、オーディエンスが君の神だ。彼らがどうにかして面倒を見てくれる。でも神が現れるのを待っている間は、とりあえずいいエンタメ弁護士を探しておくといいよ」

 イギーは、音楽界の大半は部外者──映画製作会社から広告主まで──がミュージシャンの曲に金銭を払う「パトロン制度」になってしまっているという。「金を稼ぎたいのなら、自動車保険を売るんじゃだめなのか?少なくとも自分の正直な意見だよ。(音楽業界は)広告だ。それがすべてだ」

■「ミッキーマウス・クラブの外の才能」

 ミュージシャンとレーベルは意見の相違も多いが、あからさまな海賊盤をなくすことに関しては通常、一致団結している。一方、イギーは盗作には反対しているが、エンターテインメント業界は音源へのフリーアクセスを求めるファンを「目の敵にする風潮」によって誤った方向へ導かれているという。「大学生が音声ファイルをシェアしたからといって、その子を告訴するようなことは、何百年前にウサギ泥棒をオーストラリアに送っていたような話にそっくりだ。一日中死ぬほど働いた後にB級映画をただで観たいと思う貧乏な人間から見たら、そう見えると思うよ」

 代わりに「ミッキーマウス・クラブの外の新たな才能」を生み出す上で、インディペンデント・レーベルたちが果たした役割は重要だったとイギーは述べた。中でもイギーが称賛したのは、25年前にリアル・ワールド・レコード(Real World Records)を立ち上げたピーター・ガブリエル(Peter Gabriel)だ。このレーベルはメインストリームの音楽業界では失うものが多いワールド・ミュージックのミュージシャンたちに、拠点とする地域以外への販路を提供したとイギーは評価する。

「音楽は昔は営利目的の商売じゃなかった。一番いいのは地域社会の中の仕事として発展した形だった。『やあ、僕の仕事はミュージシャンだ。だから皿洗いやごみ捨ては任せておくよ』。昔はもっとこんな風だった」

「そして世界の中でも、みんな貧乏で、近代化が最近始まったような場所から偉大なシンガーや演奏家が登場するのは、ちっとも驚くべきことじゃない」(c)AFP/Shaun TANDON