■絶滅した結核菌種

 今回の研究は、古代アメリカ大陸の結核に関する長年の疑問の数々に回答を提供するものとなっている。

 遺伝子学的にみると、現代の米大陸結核の菌種は欧州の菌種と近縁関係にある。これが基となり、1492年にコロンブスが初めて米先住民と接触した後に、欧州人によって結核が持ち込んまれたとの結論が導びかれた。

 しかしそれより数百年も前に、結核菌が既に米大陸に存在していたことを示す考古学的証拠が人骨やミイラから見つかっている。

 また一部には、シベリア(Siberia)とアラスカ(Alaska)を結んでいたベーリング(Bering)地峡を渡ってアフリカからやって来た初期人類とともに、結核菌が拡散したことを示唆する説もある。同地峡は、約1万1700年前の最後の氷河期の終わりに海中に没したとされている。

 しかしこれらの説では、欧州の菌種との遺伝子的類似性や、結核がそれより新しい時代の病気である可能性が高い事実を説明できない。

 今回の研究では、古代の人骨3体から見つかった結核菌が、現代の米大陸の人々にみられる菌種とは異なるものと結論付けられた。また海洋哺乳類によって最初に持ち込まれた結核菌については、もっと後の時代に欧州の菌種に取って代わられたことが考えられるとしている。

 論文の共同執筆者の一人、テュービンゲン大のヨハネス・クラウス(Johannes Krause)氏は「アザラシやアシカとの関連性は、約6000年前にアフリカで発生した、哺乳類に適応した病原菌が、どのようにしてその5000年後にペルーに到達できたかを説明する上で重要になる」と指摘する。

「海からの導入は、ベーリング地峡が水没して米大陸への陸地の移動がもはや不可能になってから数千年後に、結核が米大陸の人類に到達することを可能にした最も可能性の高い経路と思われる」(クラウス氏)

(c)AFP/Mariette LE ROUX