【7月16日 AFP】中国の電子商取引大手アリババ(阿里巴巴、Alibaba)が小売業の枠を超えて、2013年6月に販売を開始したオンライン金融商品「余額宝(Yuebao)」の顧客が1億人に達し、運用資産残高は900億ドル(約9兆1400億円)を超えた。新たな金融商品の台頭が国有銀行を揺るがしている。

 米SNS大手フェイスブック(Facebook)の上場時に匹敵する規模で米ニューヨーク証券取引所(NYSE)への上場を準備中のアリババは、すでに中国の小売業と物流のあり方を変えてきた。アリババの創業者であるジャック・マー(Jack Ma)会長は、今度は金融業の改革だという。

■マー会長の展望にあった金融業の変革

 中国の銀行業界は4大国有商業銀行による寡占状態にあり、高い利子や不十分なサービスに加え、民間の中小企業よりも国営大手への融資を優先する傾向が批判を浴びてきた。マー会長は2013年に「銀行業界には混乱を起こす者が必要だ」と語り「銀行が変わらないなら、我々が変えていく」とも述べていた。

 アリババのオンライン決済プラットホーム「アリペイ(支付宝、Alipay)」のユーザーが投資できる余額宝は、従来の銀行の預金金利よりも高い利回りが人気を集め、運用資産残高は販売開始から1年経った今年6月末で920億ドル(約9兆3000億円)に達した。今年初頭の時点で、寧波銀行(Bank of Ningbo)や南京銀行(Bank of Nanjing)といった都市商業銀行の資産水準を抜いている。

■運用機会に恵まれない投資家らをつかむ

 余額宝の人気は、携帯電話でも運用できる手軽さに加え、中国では預金の運用先の選択肢が少ないことが大きく関係している。経済成長にもかかわらず株式相場は振るわず、不動産の評価額も下落している。銀行の預金金利は低く、投資家らの海外送金もほとんどの場合、認められていない。

 しかし、銀行の預金金利は当局が決定している一方で、規制が緩いオンライン金融商品には高い利回りを提供する余地がある。

 余額宝の7日間平均年換算利回りは1月のピーク時に6.76%に達し、国有銀行の1年もの定期預金金利(3.0%)の2倍以上となった。

 余額宝の影響で、銀行業界全体の純利益は今後3年間で8%下がるとの試算もある。中国国営テレビの解説者、鈕文新(Niu Wenxin)氏は自らのブログで「余額宝は銀行業界にしがみつく吸血鬼だ。顧客にはわずかな利益しか与えず、大儲けをして、社会全体にそのコストを負わせている」と酷評した。

 一方で、余額宝の参入によって競争が生まれ、中国の銀行にいっそうの改革に向けた準備を促すとの見方もある。

 中国人民銀行(中央銀行)の周小川(Zhou Xiaochuan)総裁は3月、余額宝などのオンライン金融商品について「厳格な規制はしてこなかったが、将来、何らかの策が講じられるだろう」と述ベたが、一方で「余額宝のような金融商品を禁止することは全くないだろう」と明言した。(c)AFP/Amanda WANG