【6月20日 AFP】イラン人が訪米するのは容易ではない。1979年の米大使館人質事件をめぐって国交を断絶し米大使館がないことから、査証(ビザ)の申請にはアラブ首長国連邦(UAE)のドバイ(Dubai)かトルコまで費用をかけて出向かなければならない。

 あるイラン人学生のグループは、それ以上の大きな問題を抱えている。米国に車を運びたいというのだ。しかもそれは普通の車ではない。4.5メートルの炭素繊維製の車体を持つソーラーカー「ハビン2号(Havin-2)」は、はた目には1枚の巨大なドアのよう。白い車体の下についた4つの車輪を確認してようやく車だと分かる。

 この学生のチームは、7月に米国で行われる「アメリカン・ソーラー・チャレンジ(American Solar Challenge)」への参加を予定しているが、多くの問題を抱えており、スタートラインに立てるのかどうかすら分からないという悲しい現実に直面している。アメリカン・ソーラー・チャレンジはテキサス(Texas)州オースティン(Austin)からミネソタ(Minnesota)州ミネアポリス(Minneapolis)まで7つの州、2735キロを縦断するレース。

■核計画をめぐる「経済制裁」の壁

 チームの前に立ちはだかっているのは、米国などによる、イランに対する核開発問題をめぐる経済制裁だ。これにより、ハビン2号の空路輸送が困難となっている。

 チームのあるメンバーは、「各国政府にはチームを、テロリストではなく研究者の集まりだと認めてほしい」と願っている。

 米財務省からは、このソーラーカーを「会議や実演会、展示会などの公開イベント」で使用する限り特別な承認は不要と明記した書簡を得ているにもかかわらず、カタール航空(Qatar Airways)、トルコ航空(Turkish Airlines)、ルフトハンザ航空(Lufthansa)の3社はいずれも経済制裁に違反する恐れがあるとして輸送を拒否した。

 現在、イランのある航空会社と詰めの交渉を行っているが、7月1日以前の到着を希望しているものの航空会社は確約できないとしている。仮に予定通り着いたとしても、レース開幕まで2週間もない中、ハビン2号が無事税関を通過できるのかという問題は残る。

■世界に示したい「国の誇り」

 ソーラーカーレースで勝利する鍵は、コースの把握と日射角度の見極めにかかっているという。ハビン2号は試験走行で最高時速110キロを出しているが、大会では時速160キロまで出せると信じているという。

 今大会の目的はクリーンエネルギーの推進にあるとはいえ、チームにはイランという国の誇りを示したいという気持ちもうかがえる。3年前にオーストラリアで開かれたソーラー・チャレンジにも出場しているメンバーの1人は、「僕たちの力を見せたい、もしかしたら世界の他のどこよりも強いかもしれない」と意欲を示している。(c)AFP