【4月19日 AFP】樹木が伐採され尽くしたカナダ・ケベック(Quebec)州の森林を越えてさらに北上すると、こんな看板が掲げられている──「破壊の道はここで終わる」。先住民たちが、森と伝統的な狩猟の権利を守るための闘いを続けている場所だ。

 カナダの北方林は、世界最大の手つかずのまま残る森林地帯。北極圏を囲む北緯50度以上にある森林の3分の1を占める。凍ったブロードバック(Broadback)川の南に広がる針葉樹林には、何百種もの野生動物が生息しており、その中には絶滅の危機に瀕しているカリブー(トナカイ)も含まれる。

 先住民クリー(Cree)は、この森の中で何世紀もの間、狩猟をしながら生活してきた。その暮らしが初めて脅かされたのは、1970年代のこと。森林伐採と水力発電ダムの建設が始まった頃だ。

 2010年、1万6000人のクリー人を代表した10人が、伐採のための道を断固として封鎖した。伐採は先住民にとってほとんど恩恵はない、環境を破壊するだけだ、と主張している。川の南方6キロのところに立てられた看板は、彼らの最後の抵抗だ。先住民たちは、この看板より北に広がる1万3000平方キロの土地を、自然保護区とすることを要求している。

 森林伐採企業たちは伐採の一時停止を受け入れはしたが、この期限は昨年6月に過ぎており、クリー代表議会はまだケベック州政府と合意に至っていない。

 この森林の未来は、ケベック州の地方選挙の争点にもなった。選挙前の世論調査でリードしていた自由党は、天然林の大々的な伐採に賛成した。森林伐採がなければ、何千もの雇用が危機に瀕するというのだ。一方で、自由党のライバルであるケベック党(Parti Quebecois)もまた、伐採を大幅に拡大していく意向を示した。

 政府の最新の統計によれば、ケベック州の森林産業はカナダ最大で、約7万人を雇用している。森林産業はケベックの州内総生産の2.7%を占め、材木やパルプ、紙などの取引額は毎年、数十億ドル相当に上るが、世界経済と並行して浮き沈みを繰り返してきた。

 伐採されてしまった昔の狩りのわな道に立ちながら、ドン・サガナシュさんは辺り全体を指して嘆いた。「私たちはもうここで狩りができない。動物が隠れる場所など、なくなってしまった」。以前は冬になると100匹は捕えていたテンが、今年は1匹もわなにかからなかった。

 狩猟は生計の手段であるだけではなく、クリーの人々の文化の核心だ。カナダの法律にも先住民の権利として明記されている。だがその権利は北へ北へと進んできた森林伐採によって脅かされていると、ドンさんは言う。

 ドンさんといとこのマルコムさん、フィリップさんの3人のところには、材木業界の代表者たちが何度も訪ねてくる。彼らの狩猟場所の近くでの伐採計画と、その補償の提案をしに来るのだ。マルコムさんは語る。「私はノーと言っているのに、彼らはまだ北へと進もうとする」

(c)AFP/Clément SABOURIN