【1月29日 AFP】2012年にサウジアラビアで初めて感染が報告された中東呼吸器症候群(Middle East Respiratory SyndromeMERS)のウイルスが、ヒトの呼吸器系の細胞に融合しないよう阻害するアミノ酸化合物(ペプチド)を培養皿実験で突き止めたと、中国の研究チームが28日、発表した。

 細胞融合は、ウイルスの自己複製にとって鍵となる過程だ。細胞融合によってウイルスは細胞の中に侵入し、自分を複製するために細胞機構を「ハイジャック」する。

 上海・復旦大学(Fudan University)の姜世勃(Shibo Jiang)教授率いるチームが28日、英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)に発表した論文は、「HR2P」と呼ばれるペプチドには、将来的に抗MERSウイルス薬の開発を望める可能性があるとしている。

 HR2Pの効果については、これまでのところ培養皿上の細胞実験で研究されているのみで、動物実験が行われたことはない。すべての新しい薬剤同様、次の段階として有効性を確かめる長い過程が必要となる。

 2003年頃、アジアを中心に8273人が感染する猛威を振るい、感染者の9%が死亡したSARSSevere Acute Respiratory Syndrome、重症急性呼吸器症候群)のウイルスとMERSウイルスはコロナウイルスの近縁種だ。ただしMERSウイルスの方が毒性が高く、伝染性が弱いと考えられている。

 世界保健機関(World Health OrganizationWHO)によると、現時点までに世界で確認されたMERSウイルスの感染例は180例。うち77人が死亡している。(c)AFP