【11月7日 AFP】カンガルーとディンゴを初めて描いた西洋絵画とされる歴史的な油彩画2点の所有をめぐり、オーストラリア国立美術館と英国政府が対立している。2点の絵画は現在、英国在住の個人が所有しているが、英関係者は6日、豪美術館への売却を阻止できるだけの十分な資金が募金運動を通じて集まったと発表した。

 英国の画家ジョージ・スタッブス(George Stubbs)の手による2点の油彩画、「Kongouro from New Holland(ニューホランドのカンガルー)」と「Portrait of a Large Dog(大きな犬の肖像画)」は1773年、英ロンドン(London)で初めて展示され、英国の新たな領地であるオーストラリアで発見された風変わりな動物を英国民に紹介した。

 ただし、スタッブスはどちらの動物も実際に目にしたことはなく、これらの絵画は英探検家ジェームズ・クック(James Cook)船長が1768~1771年に行った第1回太平洋航海に同行した英植物学者ジョセフ・バンクス(Jospeh Banks)卿からの依頼を受け、口頭での説明と骨格標本、カンガルーの皮の標本を基に描いたものだ。

 中でもカンガルーの絵は、オーストラリアの最初の国章の原案となったもので、オーストラリア国立美術館は「わが国の芸術史に欠かせない作品」であり「オーストラリア国民が所有するべき」だと主張。買い取りをめぐって2作品の現在の所有者であるバンクス卿の妻の子孫と交渉していた。

 これに対し英国政府は今年2月、2作品の国外持ち出しを禁止。ロンドンの国立海洋博物館(National Maritime Museum)がこの間、「英国の重要な作品」の購入資金を集めるための募金を行っていた。

 国立海洋博物館は6日、募金額が450万ポンド(約7億円)に達し、オーストラリア国立美術館の提示額に対抗できるだけの資金が集まったと発表。エド・ベイジー(Ed Vaizey)文化相はこれを受け、「素晴らしいニュースだ。わが国の文化財の輸出を管理する制度によって、文化遺産を国内にとどめることができた良い例だ」と発言した。

 一方、オーストラリア国立美術館は「英国側の対応は非常に残念だ」との声明を発表。「スタッブスの2作品はオーストラリアの豊かな視覚文化の始まりを表すものであり、英海洋史よりもオーストラリアの視覚芸術の発展に深く関連している」と述べている。(c)AFP