【10月31日 AFP】中国国家の象徴的中心である天安門(Tiananmen)広場で28日に起きた自動車炎上事件について専門家らは、中国の巨大な警察・情報機関にとって面目丸つぶれの失態であり、治安上体制の脆弱性を完全にふさぐことはできないことを露呈したと述べている。

 共産党による一党独裁の中国は、人口13億5000万人の秩序を維持するために軍事費を上回る巨額の費用をつぎ込んでいる。

 拡大する首都北京(Beijing)の中心部にある天安門広場は、1989年の民主化要求デモを始め、政府に対する大小さまざまな抗議行動を引きつけて来た。広場は常に厳重な警備下に置かれ、制服、私服の双方の警官らがあらゆるトラブルに目を光らせている。

 今回の事件について「共産党は明らかに恐怖を覚えているだろう」というのは、英グラスゴー大学(University of Glasgow)の中国政治専門家デビッド・トービン(David Tobin)氏だ。「(天安門広場の)一帯は、厳重警戒区域だ。ここで今回のようなことが起こるとは想像もしていなかったはずだ。党は神経をとがらせていることだろう」

 香港中文大学(Chinese University of Hong Kong)の中国研究者ウィリー・ラム(Willy Lam)氏は、治安対策が無効だったことがあらわになったことに加え、外国人を含む少なくとも5人の死者と40人の負傷者が出たことが、翌月北京で共産党の重要会議を控える当局にとって、いっそう不都合な事態を招いている。

 中国が今年発表した国内の治安対策予算は計7690億元(約12兆4000億円)で、公表している軍事費を上回っており、2010年以降では2000億元(約3兆2000億円)以上増えている。巨額の費用が「安定性の維持」に費やされているが、その活動の中には抗議デモの参加者の拘束や反体制的な人物の監視、55の少数民族による騒乱や暴動を防ぐための監視などが含まれている。

 米ザビエル大学(Xavier University)で刑事司法を教える元香港警察幹部のカム・C・ウォン(Kam C. Wong)さんは「中国公安省が天安門の安全を守れないのだとしたら、中国全体が安全でないことになり、さらなる問題を誘う」と警告する。

 警察当局は30日、今回の天安門広場での事件を初めて「テロリストによる攻撃」と呼び、容疑者5人の身柄を拘束したと発表した。国営メディアは炎上した車を運転していたのは、「ウスメン・ハサン(Usmen Hasan)」という男で、同乗していたのはその妻と母親だったと報じている。北京市警察によれば車の衝突後、3人は車内にガソリンをまいて火をつけ、現場で死亡したという。

 車内で死亡した3人や、拘束された容疑者5人の民族名は公表されていないが、氏名はウイグル語に近いという。また警察は車のナンバープレートについて、少数民族ウイグルが多く住む新疆ウイグル自治区(Xinjiang Uighur Autonomous Region)のものだったと発表した。

 専門家らは、同自治区の出身者が事件に関与していたか否かにかかわらず、今回の事件をきっかけに北京市内と同自治区の両方でウイグル人を警戒した治安対策が強化される可能性が高いとみている。一方、ウイグル系の人権団体は、弾圧に対する懸念をすでに表明している。(c)AFP