【10月18日 AFP】インド洋に浮かぶモルディブは世界有数の高級リゾート地だが、この5年ほど、バックパッカーも安く旅行できるようにと観光業の改革が静かに進められており、これに国内のイスラム教保守派が反発している。

 モルディブを訪れる旅行者の大半は、空港のある島からスピードボートや水上飛行機を使って、青い海と珊瑚に囲まれたプライベートリゾートがある島々へ向かう。旅行者の味わう至福の時間は、モルディブの普通の人たちの生活とは別世界だ。これは主に欧米からの観光客や新婚旅行で訪れる裕福な外国人を、イスラム教徒である地元民と隔絶させておくために無人島で過ごさせるという長年、意図的に行われてきた観光政策だ。

 イスラム教国家であるモルディブでは、旅行者には異なる法律が適用される。旅行者にはアルコールや豚肉の飲食、結婚前の性交渉が許されるが、これらはすべて国民には許されていない行為だ。

「ヒッピーのような旅行者が来たら、ドラッグも一緒にこの国に入ってくるだろう。わが国はすでに麻薬の問題を抱えている」と、保守派のアドハーラス党(Adhaalath Party)のマウルーフ・フセイン(Mauroof Hussain)副党首は言う。同党は08年以来、連立与党の一翼を担っている。

 実際のモルディブはバックパッカーが大挙して訪れるような「ヒッピー・トレイル」からはいまだ程遠いが、マレ(Male)島やマヤフシ(Maafushi)島では、バックパーカーが旅行しやすい環境が整いつつある。低予算の旅行者を呼び込もうとする新しい観光政策のおかげだ。

「人が住んでいるところで、旅行者のヌード姿など認めるわけにはいかない」と、フセイン氏は言う。「モスクで礼拝しているすぐ外で旅行者がビキニ姿で遊んでいると、住民から苦情が出ている」

■無人島以外でのゲストハウス経営が可能に

 このような観光政策の方針転換は、2009年に同国初の民主選挙で選ばれたモハメド・ナシード(Mohamed Nasheed)前大統領の下で始まった。具体的には住民がいる島にモルディブ人自ら、ゲストハウスをオープンすることが認められた。

 一方、中東やパキスタンから持ち込まれる、過激ともいえるイスラム原理主義はモルディブでも根を張りつつある。それでも、アドハーラス党のフセイン氏のような考え方はかなり非主流であり、多くの人はそのような原理主義思想を冷ややかな目で見ている。

 新しく認可されたゲストハウス制度は、25歳のイブラヒム・モハメド氏のような起業家を生んだ。彼はゲストハウス用の不動産ビジネスで財を成した。「モルディブ人は誰でも歓迎する。(旅行者を)隔離しておきたがったのは、政府や一部の経済人であって、国民ではない」とモハメド氏は語る。「モルディブはもう世界から隠れたままでいることはできない」

 彼が経営するスンダーラ・パレス(Sundhara Palace)は首都マレの繁華街に9月にオープンした。3部屋あり、1泊30ドル(約3000円)だ。リゾートでの宿泊ならば最安値でも、この10倍の料金がかかるし、上は1泊数千ドルもする上に食事の料金も高い。

 モハメド氏は、ゲストハウス制度は「裕福な実業家ではなく普通の人たちが稼げるという点で良いシステムだ」と強調する。

■観光利権が大統領選にも反映

 モルディブでは、マウムーン・アブドル・ガユーム(Maumoon Abdul Gayoom)元大統領の30年にわたる独裁支配の下、政権に有力なコネのある一握りのリゾート保有者たちが富を独占し、同国の経済を牛耳るとともに政界も仕切ってきた。こうした財閥たちが徒党を組んで、2012年2月にナシード前大統領を退陣に追い込んだ。ナシード氏の辞任の引き金となったのは警察による反乱だが、同氏はこれを「クーデター」と呼んだ。

 ナシード氏は今年9月の大統領選に出馬して第1回投票でトップに立ったが、最高裁はこの結果を無効とする判断を下した。これはアドハラス党と関係が近しい実業家で、第1回投票で敗退した同国の富豪の1人、ガシム・イブラヒム(Gasim Ibrahim)氏の申し立てを受けた結果だった。再投票は10月19日に予定されている。

 ナシード氏は再び大統領に選出された場合、自分が目指す社会・経済改革の一環として、ゲストハウス制度を拡大すると公約している。「ゲストハウス事業は急速に発展している。まだまだ伸びる余地があると思う」と、彼は9月の第1回投票が行われる前に記者団に語った。

 ゲストハウスを転々としながらモルディブを旅行中のオランダ人バックパッカー、クリス・コンスタンデ(27)さんは、最初の数晩は首都のホテルに宿泊したが、残る2週間の休暇は、モルディブの1000を超える島々にあるゲストハウスから選んで過ごそうと思っている。「バックパッカーはインドやスリランカ、タイに行くけれど、僕はいつも人とは違うことがしたいから、モルディブを選んだ。一番大事なのは、人と触れ合えること。マレに3日滞在しただけで、もう友だちが何人かできたよ」(c)AFP/Adam PLOWRIGHT