【8月29日 AFP】知らぬ間にわが家に住み着き、何年も同居していた「間借り人」が、世界でも最も恐ろしい毒ヘビだった――。そんな悪夢のような話が、オーストラリアでは現実だ。

 オーストラリアにはイースタンブラウンスネークをはじめ、かまれれば死に至る猛毒を持つさまざまな毒ヘビたちが生息する。これらの毒ヘビは都会で繁殖し、ゴミ箱をあさりにくるネズミなどの小動物を餌としている。

 シドニー(Sydney )でヘビの駆除を請け負っているアンドルー・メルローズ(Andrew Melrose)さんによれば、暖かい屋根裏でとぐろを巻き、ぬくぬくと越冬するヘビも少なくない。人間がうっかり彼らの眠りを妨げなければの話だ。

■ヘビにとって居心地の良い人家

 メルローズさんのところには「完全なパニック状態に陥って、悲鳴を上げながら」助けを求める電話がかかってくるという。「自宅を売ってヘビのいないニュージーランドなどに移住しようとする人たちもいます」。しかし実のところ、ヘビたちは何年も前から室内や庭にすみ続けていたのだ。それが、家主の休暇や家の改築などで突然、白日の下にさらされただけだとメルローズさんは指摘する。

 それでも、人がヘビに襲われて死亡する例は年に1~4件程度で、そう多くはない。ヘビたちが人間に近付こうとしないためだ。

 豪メルボルン大学(University of Melbourne)でヘビやクモなどの毒液を研究するケン・ウィンケル(Ken Winkel)氏も、オーストラリアでは多くの人が知らずにヘビと同居していると認めつつ、次のように述べた。「ヘビが人間にとって危険というよりも、むしろオーストラリアのヘビたちにとって人間が脅威となっています。一般的なオーストラリア人が危険なヘビに遭遇する例は、まれです」

■人とヘビの残念な遭遇例

 人間がヘビの犠牲となる事件が起きるのは主に地方だが、時には都会でも発生する。ウィンケル氏は、2003年にメルボルンの植物園で果樹の手入れをしていた年配女性がタイガースネークにかまれて死亡した事件や、2007年にシドニーで16歳の少年がブラウンスネークにかまれてパニックになり逃げだした例などを挙げた。

 かまれて死亡する人が最も多いのはイースタンブラウンスネークだ。体長2メートルもあり、オーストラリア全域に生息する。ウィンケル氏によれば、餌をえり好みせず都会の暮らしに順応できることから、大陸全土でごく普通に見かけるようになったという。

 ヘビは通常、人間を避けるが、好奇心に満ちた子供たちが問題を起こすこともある。

 2012年にはクイーンズランド(Queensland)州タウンズビル(Townsville)で、3歳の男児が見つけた卵をタッパーに入れて衣装だんすに隠しておいたところ、ふ化したのはイースタンブラウンスネークだったという事件があった。幸い、男児がかまれることはなく、ヘビは野生に返された。

■無害なヘビとの共存生活

 メルローズさんが受ける駆除依頼のほとんどは、家や庭にブラウンスネークがいるというものだが、駆け付けてみると茶色いだけで無害なヘビや、トカゲの場合も多いという。そんなときメルローズさんは、ヘビやトカゲをそっとしておくようにとアドバイスする。「彼らは全く害のない生き物で、ただ帰り道に迷っただけでしょう。20~30年もその家にすみ着いていて、大抵の場所では人間たちと完璧に共存しているんです」

 ジム・ブランドさんとカロリンさん夫妻も、そんな人間たちだ。夫妻はシドニーの自宅で、頭上にヘビたちのねぐらがあるとは知らずに何年も暮らしてきた。

  「裏庭でヘビの抜け殻をいくつか見つけたことがありましたが、まさか自宅にすみ着いているとは思いませんでした」とジムさん。ある日、屋根を張り替えていた職人が1匹のヘビを見つけたが、ヘビはその場から動こうとしなかった。最終的に、屋根からは3匹のヘビが見つかった。全て害のないグリーンツリースネークだったという。

 カロリンさんも言う。「ヘビが見つかっても、ちっとも心配しませんでした。だって、それまではヘビが居着いていることすら知らなかったんですから」。それより、屋根裏で騒々しい音をたてるフクロネズミや、裏庭の木陰にすみ着いたニシキヘビのほうが迷惑だったというカロリンさん。「見つかったヘビたちが無害だと知って、そのままにしてあります。何の問題もありません。ヘビだってどこかをすみかにしなければならないですしね」と話した。(c)AFP/Madeleine COOREY