【7月31日 AFP】北朝鮮の首都平壌(Pyongyang)にあるサッカーコートほどもの広さの芝生の上で、ピンセット1本を手に黙々と芝を手入れする人々──まるで、ギリシャ神話の英雄ヘラクレス(Hercules)に課せられた難行の1つのようだ。  

 だが、これはただの芝生ではない。北朝鮮を建国した故金日成(キム・イルソン、Kim Il-Sung)主席と息子の故金正日(キム・ジョンイル、Kim Jong-Il)総書記の遺体が永久保存され、同国で最も神聖な場所の1つとされる錦繍山太陽宮殿(Kumsusan Palace of the Sun)の庭園の芝生だ。そのため、この庭の手入れ業務には、少しばかり緊張が伴う。

 北朝鮮の過酷な冬にも庭園では鮮やかな緑の芝が生え、宮殿の見た目を引き立たせると同時に、その印象を和らげている。昼間、庭園のあちらこちらで身をかがめ、一心不乱に芝の世話をする男女の作業員の一隊を見かける。手にする器具は、芝の手入れよりは、むしろ盆栽の剪定(せんてい)向きと思われる。

 水色の作業服を着て日よけ帽をかぶった女性作業員の1人が手にした器具は、ピンセット1本と枯れた芝を入れるプラスチックの容器だけ。彼女には二重の作業がある。青く健康な芝をまっすぐに立たせることと、芝生の見た目を損ねる枯れた草や傷んだ草を引き抜くことだ。

 朝鮮戦争(Korean War、1950~53年)休戦60年の記念式典を取材する外国メディア向けの宮殿ツアーに参加したAFP記者に対し、この女性作業員は「ちょっと前にあった豪雨で芝の一部がぺしゃんこになってしまった」と話した。「あまりにも雨が激しいときは、雨水が一か所にたまらないようブラシでかき出し、完全に乾いたあとで芝を立たせる」のだそうだ。この仕事を始めたのは数か月前だという。