【7月22日 AFP】マウスの幹細胞を用いて、失明したマウスに視力を回復させる実験に成功したという論文が21日、英科学誌「ネイチャー・バイオテクノロジー(Nature Biotechnology)」に発表された。この成果は、進歩が速い網膜治療の分野にさらなる追い風となると期待されている。

 英ロンドン大学ユニバーシティー・カレッジ(University College LondonUCL)のロビン・アリ(Robin Ali)氏率いる研究チームは、マウスの胚から採取した幹細胞を培養し、未熟な「光受容体」に分化させた。光受容体は、網膜中にある光を捉える細胞。

 この光受容細胞約20万個をマウスの網膜に注入したところ、その一部が元の細胞と滑らかに融和して、視力を回復させた。マウスが光に反応することを確かめるために、水迷路での歩き方の検査や検眼鏡での検査を行った。

 英医学研究会議(Medical Research Council)は、ES細胞(胚性幹細胞)には「将来、人間の失明を治療する網膜移植のための健康な光受容体に関して潜在的に無制限の供給を実現できる可能性がある」とプレスリリースで述べた。

 光受容体の喪失は、網膜色素変性や加齢黄斑変性(AMD)などの眼の変性疾患の一因となっている。

 アリ氏の研究チームはこれまでの研究で、健康なマウスの網膜から採取した、かん体細胞と呼ばれる未熟な光受容体の移植によって、失明したマウスの視力回復が可能なことを明らかにしていた。

 今回の最新の研究でさらに進歩した点は、移植された物質が、視覚に必要な神経細胞とは全く異なる細胞で構成され、他の動物から採取されたものでもないことだ。移植したのは、日本で最初に開発された、網膜の形状を複製する新技術を用いて、実験室で培養して適切に分化させた細胞だ。

 アリ氏は「次の段階は、臨床試験を開始できるようにするために、ヒトの細胞を使ってこの技術をさらに改良することだ」と述べている。目標は、いわゆる人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使用して、AMDの治療法を試験することだ。(c)AFP