【7月11日 AFP】米国での公開を今週末に控えたSFアクション映画『パシフィック・リム(Pacific Rim)』――今夏の大ヒットは間違いなしの同作品が生まれた背景には、長年、日本の「カイジュウ」に憧れてきたギレルモ・デル・トロ(Guillermo Del Toro)監督の思いがあった。

 メキシコ生まれのデル・トロ監督は、ゴジラなど1950年代の日本で人気のあった怪獣たちに幼少の頃から心を奪われてきた。

『クロノス(Cronos)』(1993年)や『ミミック(Mimic)』(1997年)、「ヘルボーイ(Hellboy)」シリーズ、アカデミー賞にノミネートされた傑作『パンズ・ラビリンス(Pan's Labyrinth)』(2006年)など、デル・トロ監督の作品には、モンスターや超常現象のテーマが繰り返し登場する。

 デル・トロ監督はAFPの取材に、「私はモンスターのとりこなんだ」と語った。「顔を輝かせてペットの子犬や子猫の話をする人たちがいるだろう。私の場合は、それがモンスターなんだ」

 そうした情熱を、デル・トロ監督は壮大なスケールで新作『パシフィック・リム』に注ぎ込むことを許された。製作費はおよそ1億8000万ドル(約180億円)とみられる。

 チャーリー・ハナム(Charlie Hunnam)、イドリス・エルバ(Idris Elba)の英国俳優2人が演じる主人公は、人型ロボットを操作して太平洋(Pacific Ocean)の海底の裂け目から出現した巨大な怪物と戦う。

 デル・トロ作品の中でも『パシフィック・リム』は最も壮大で最も複雑な映画だ。だがデル・トロ監督は動じない。「映画製作者として、私はこれまでも技術面に力を注いできた。メーキャップ、アニメーション、特殊効果などでね」とデル・トロ監督は話す。「だから、今回の作品でも技術面で迷うことはなかった。これほどの規模の映画制作に必要なのは、結局は規律と努力とエネルギーだ」

 むしろ難しかったのは、映画全体の印象を無数の視覚効果が圧倒することがないよう注意することだったという。「一番、しんどかったのは映画の芸術面での調整作業だった。視覚的な美しさを感じてもらうために、色合いや質感、形にも気を遣った」

 同時にデル・トロ監督は、登場人物たちの人間性を強く押し出すことも目指した。「1人のヒーローではなく全ての登場人物に、同等の重要性をもたせるようにした。この映画は人類が人類を救うという物語だから、人間的な要素が、とても大切だった」

 だが究極のところ、『パシフィック・リム』は怪獣映画だ。デル・トロ監督は子ども時代の自分が刺激を受けたゴジラ映画のように、『パシフィック・リム』も新世代の映画ファンたちにひらめきを与えられればと期待している。

『パシフィック・リム』を「若い世代や家族連れに見てほしい」と語るデル・トロ監督。新世代に、このジャンルの作品のファンが生まれれば、とても嬉しいという。

 同時にデル・トロ監督は、『パシフィック・リム』の中で日本の「怪獣」映画にオマージュを捧げている。「怪獣は厳密に3種に分類される。昆虫タイプ、甲殻類タイプ、そして爬虫(はちゅう)類タイプだ」

『パシフィック・リム』も、この分類を適用し、カニのような怪獣や爬虫類系の怪獣が登場するという。

 だが『パシフィック・リム』ほどの大作映画を手がけた今、デル・トロ監督は小規模な作品に興味があるという。「今、映画を撮るならば、すぐにできて、長さも短く、あまりお金のかからないものがやりたいね」

(c)AFP/Romain RAYNALDY