【7月4日 AFP】暴露された米国のスパイ行為に欧州の人々は怒りを表明するかもしれないが、彼らは情報収集活動の「ゲーム」がどのように行われているかについて以前から熟知している──誰もが誰かをスパイしているのだ、と元情報当局者らは語る。

 米国家安全保障局(National Security AgencyNSA)による在ワシントンD.C.(Washington D.C.)欧州連合(EU)代表部やその他の同盟国の在米大使館の盗聴疑惑について、バラク・オバマ(Barack Obama)米大統領は問題の沈静化を図るのと同程度に、情報収集活動を行っていることを暗に認めているように見える。

 オバマ大統領は1日、訪問先のタンザニアで「欧州各国の首都には、私が朝食に何を食べたかには興味がないとしても、自国の首脳と私が会うことになっていれば、私がどんなことを話題にするかぐらいは知っておきたいという人たちがいる。これは私が保証する」と述べた。「情報機関はそのように活動しているのだ」

 また、NSAのマイケル・ヘイデン(Michael Hayden)前局長は6月30日に米CBSテレビに出演し、「国際的な情報収集活動に対して悲嘆しているヨーロッパ人はまず、自分の国の政府が何をしているのか調べた方が良い」と述べ、友好国をスパイしているのは米国だけでないと示唆した。

 さらに、匿名を条件に取材に応じた別の元情報当局者は「フランスはわれわれをスパイしているし、英国をスパイしている。イスラエル、ロシア、英国、米国、中国など本格的な情報機関を持つ大国は常に他国の政府をスパイしている」と語る。

 一方、欧州のある情報筋は、米国の電子監視プログラムが非常に大規模だったことを考えれば、西側同盟国の怒りは理解できると指摘した。

■「偽善はゲームの一部」

 米政府の元高官でサイバーセキュリティー専門家のジェームズ・ルイス(James Lewis)氏は、一部の批判は「空疎に聞こえる」と語る。「欧州の大国はこれと極めて似たことをしているのだから」

 また、米中央情報局(CIA)元職員で、現在はジョージタウン大学(Georgetown University)に所属するジョン・ショイアー(John Scheuer)氏は「偽善はゲームの一部」と説明する。公の場でスパイについてある発言を行い、それとは違うことを秘密裏に承認するのは昔からあったことだという。

 9.11米同時多発テロの後、ショイアー氏はテロ容疑者を拘禁する秘密収容施設の運用に携わった。CIAはテロ容疑者への過酷な尋問で入手した情報を普段から「欧州のパートナーたち」と共有していたという。

「だがそのことが明るみに出ると、(欧州の人々は)衝撃を受けてがくぜんとして、米国の行為を非難する」とショイアー氏は言う。「それがこのゲームの仕組みだ」

 しかし、米国は必要とあればいつでもパートナー国との形勢を逆転することができるとショイアー氏は言う。「われわれは常に、誰がわれわれをスパイしているか把握している。欧州の誰かがわれわれを過度に追い詰めるなら、大統領はこのように表明するだろう。『OK。欧州のX国が米国の情報を収集している証拠はこれだ』」

■「経済情報を収集していなければ、政府の怠慢」

 複数の元情報機関関係者によると、スパイの世界では同盟国に対するスパイは暗黙のうちに認められているが、絶対に検討してはならないとされる手法もあるという。例えば、欧州で選挙に介入しようとすることなどだ。

 友好国に対するスパイで、超えてはならない一線が真に存在するのは、情報収集についての「ファイブアイズ(5つの目)」協定の下で活動する英語圏の主要国、米国、英国、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドだけだという。このスパイ協定5か国の電子監視プログラム「エシェロン(Echelon)」が1990年代に暴露された際には、5か国は激しい非難にさらされた。

 米国の同盟国のうち特にフランスとイスラエルは、経済的な利益を得るために高度なサイバースパイ活動を行っているという。米情報16機関による米国家情報評価(National Intelligence EstimateNIE)は、米国企業に対する経済スパイは中国がトップで、フランス、イスラエル、ロシアが2番手につけていると結論づけた。

「私は、自分が米国人か、あるいはベルギー人や英国人だったとして、自国政府が自国経済を支援するような情報収集活動を行っていなかったとしたら、それは政府の怠慢だと考えるだろう」とショイアー氏は語った。(c)AFP/Mathieu Rabechault