【6月5日 AFP】エジプトのムハンマド・モルシ(Mohamed Morsi)大統領の会合に出席した政治家らがテレビで生中継されているのを知らずにエチオピアのダム建設を妨害する方法について議論を交わし、騒動となっている。大統領補佐官は、政治家らにテレビ中継のことを知らせるのを忘れたと謝罪した。

「議題の重要性を考えて、直前に会合を生中継することが決まった。その変更を出席者に伝えるのを忘れた。政治指導者たちに恥ずかしい思いをさせたことを謝罪する」と、大統領政務担当補佐官のパキナム・エルシャルカウィ(Pakinam El-Sharkawi)氏はツイッター(Twitter)で述べた。

 モルシ大統領が議長を務めた会合は、エチオピアが巨大ダムを建設するために青ナイル(Blue Nile)川の迂回路を作る決定を下したことについて、エジプト、スーダン、エチオピアの3国が参加した委員会がまとめた報告書をめぐって議論が進んだ。巨大ダムが建設されれば、下流のエジプトとスーダンに多大な影響を及ぼす恐れがある。

 大型のテーブルの周りに座り、この会合が非公開であると考えていた政治家たちは、ダム建設計画を阻止する方法について提案を始めた。

■「内政干渉せよ」「うわさを流せ」「反政府勢力支援で圧力を」、飛び交う提案

 リベラル政党のガド党(Ghad Party)のアイマン・ヌール(Ayman Nour)党首は、エジプトが軍用機を購入しているといううわさを流してエチオピアに「圧力」をかけるよう提案した。

 さらにヌール氏は、「(エチオピアの)内政に干渉する必要」があると述べ、エチオピアに政治、情報、軍のチームを送るべきだと提案。エジプトをより強く支持しないスーダンの姿勢を「うんざりだ」と非難した。

 また、イスラム法の厳格な順守を掲げる光の党(Nur Party)のユーネス・マフユーン(Yunis Makhyun)党首は、ダムが「エジプトに戦略的脅威」をもたらすものであり、エジプト政府がエチオピアの反政府勢力を支援することで「エチオピア政府に圧力をかけることができる」と要求した。

 会合は政権と出席した野党政治家に大打撃となった。メディアでは冷笑と怒りの嵐が巻き起こり、出席しなかった政治家までもが国民に謝罪する事態となっている。

 人気トーク番組ホストのReem Magued氏は、番組内で会合の一部を放映し、「政府の透明性を要求したのは事実だが、このようにではない。このようなスキャンダルに至るほどではない」と語った。

■エチオピア側、「関係は堅調」

 一方、エチオピアのアレマイエフ・テゲヌ(Alemayehu Tegenu)水・エネルギー相は、騒動について知らないと語り、エチオピアとエジプトの関係は「堅調」であると述べた。

 テゲヌ水・エネルギー相は、ダム建設により水量が影響されることはないと述べ、「迂回路が一部集団にとって悩みの種となっている理由が、私にははっきりわからない。どんな門外漢でも、河川の迂回路が意味することは理解できるはずだ」と語った。

 エチオピアは、「グランド・ルネサンス・ダム(Grand Renaissance Dam)」として知られる42億ドル(約4200億円)の水力発電プロジェクトを建設するため、青ナイル川を自然の流域から500メートル迂回させる作業を始めている。建設の第1段階は3年で終わる見通しで、発電容量は700メガワット。ダムが完成した際には発電容量は6000メガワットになる。(c)AFP