【2月12日 AFP】いつも異性に騙されてばかりだというあなた──バレンタインデーを前に、そんな人に向けた良いアドバイスがあるとすれば、「ロマンスは忘れて、遺伝子のことを考えよう」かもしれない。進化心理学者に言わせれば、ビシッと決めたスーツやセクシーなドレス、そしてちょっとした嘘などで異性の心を捉えようとするのは、全て人類という生物種の存続欲求なのだそうだ。

 米ニュージャージー(New Jersey)州ラトガース大学(Rutgers University)のヘレン・フィッシャー(Helen Fisher)氏は「求愛行動において、誰が勝ち、誰が負けるかによって、未来にDNAを伝えることができる者が決まる」と語る。

 自分の子孫が健康であるために最善の相手を見つけようとするのは男女ともに同じだが、女性の卵子は数が限られているのに対し、男性の精子は無限といえるほどある。その上、女性は妊娠すれば出産までに約10か月、さらに子育てに何年もつぎ込む。そのため、女性にとっては自分を養ってくれる男性を選ぶことは非常に重要だ。

 米国の人類学者ニール・スミス氏は「ダーウィン(の進化論)を一言でいえば、オスは生きているものであれば何とでも交尾したがるが、メスは選り好みするということだ」と皮肉を込めて語った。この差は異性を見る瞬間に現れているという。

■男性は視覚に、女性は資力に弱い

 男性は圧倒的に視覚に反応する。大きな胸や美しい肌、生き生きした瞳といった「生殖能力」を示すサインや、赤い唇やセクシーな歩き方など性的誘惑を連想させるところへ目が行くように作られている。

 そして、女性はそれを知っていて、自分の外見を男性の好みに合わせる。例えば、ハイヒール。ヒールが高ければ高いほど、尻の角度は大きくなる。カナダ・コンコーディア大学(Concordia University)のガド・サード(Gad Saad)氏は「女性が臀部(でんぶ)が持ち上がった姿勢は男性の目には魅力的に映る。これは、哺乳類のメスが性行為を受け入れる際の『ロードシス』と呼ばれる姿勢に似ているからだ」と述べる。

 一方、女性のほうは相手の男性の「養う力」を見極める。その簡単な手がかりが、金や権力だ。だから男性は「群れのボス」であることを誇示しようとし、クレジットカードやスポーツカー、腕時計から住宅といった、資力や地位の明白な象徴が重要となる。

 心理学者のグレゴリー・シューラー(Gregory Shuler)氏とデービッド・マッコード(David McCord)氏は2010年、出会い系サイトのユーザーを対象に、眼鏡をかけた平均的な外見の男性の画像を見せ、魅力度を評価してもらう実験を行った。

 最初に見せられたのは男性のみが立っている写真だったが、その1週間後には3種類の自動車のうち1台の隣に立った写真が投稿された。男性の服や表情はまったく一緒で、車の種類だけを、使い古されたダッジ(Dodge)社製「ネオン(Neon)」、傷一つないのフォード(Ford)社製「フォーカス(Focus)」、そして光り輝くメルセデス(Mercedes)製「Cクラス(C Class)C-300」へとグレードを上げていった。

 すると最初は低かった魅力度の評価が、車が高級になるほど上がっていき、メルセデス車の隣に立った時にピークに達した。この男性が車の持ち主だと書かれていたわけではなく、「持ち主だろう」という推測が働いていた結果だ。

 スミス氏によると、人間の求愛行動は文化的背景やその時々の流行によっても影響を受ける。だがその根底にあるのは、「ホモ・サピエンスが初めてサバンナを歩き始めてから時代は変わったが、人間のDNAは変わらない」というメッセージだ。

 フィッシャー氏は、「男性が子供を欲しがらなかったり、女性が必ずしも資力を必要としないかもしれない現代においても、いまだ進化心理学的な観点からは適合的なパターン」で男女は行動しているとフィッシャー氏は指摘する。つまり、男女の行動パターンは自然淘汰によって形成されているということだ。

■第一印象は一緒にいると変わる

 そうすると初対面での異性の評価は、まるで「市場に並べられた肉」を品定めするような、ひどい瞬間のように聞こえるかもしれないが、必ずしもそうである必要はない。「風変わりなカップル」が長続きする例は、根気よく時間をかければ、第一印象を払拭(ふっしょく)し、相手への興味や愛情がかきたてられるということを教えてくれる。

 フィッシャー氏によれば、人は出会った最初の数分で相手を品定めすることが脳スキャンを用いた研究によって明らかになっている。「しかし肝心なのは、誰かを知れば知るほど相手を好きになり、相手にも好かれる傾向があることだ。だから第一印象を乗り越えて、相手を『イエス』と受け入れる理由を考えようとするところまで行かなければならない」(c)AFP/Richard Ingham