【10月29日 AFP】スイスのジュネーブ湖(Lake Geneva)で約1500年前に、土砂崩れが原因で高さ13メートルもの津波が発生し、湖畔の村々が壊滅的な被害を受けたとする研究結果が28日、同国の研究チームによって発表された。

 ジュネーブ大学(University of Geneva)の地球科学者カトリーナ・クレマー(Katrina Kremer)氏らの研究チームは、西暦563年に起きた「Tauredunum Event」と呼ばれる事象についての報告書を英科学誌ネイチャージオサイエンス(Nature Geoscience)で発表した。

 当時のフランク王国の司祭、トゥールの聖グレゴリウス(Gregory of Tours)はこれを、奇怪で恐ろしい出来事として記録した。湖から押し寄せた巨大な波は、村々や家畜の群れを飲み込みながら湖の西端に面したジュネーブの城壁まで到達し、そこでも数人が溺れ死んだという。

 一部の専門家はこれが「湖で起きた津波」だったと主張し、その証拠としてジュネーブ湖の東部に流れ込むローヌ(Rhone)川の、湖から5キロほどの場所に山の一部が崩れ落ちたことを指摘している。

■山崩れが津波の原因に

 この出来事の詳細を解明すべく、クレマー氏のチームは高分解能のレーダー機器を用い、ジュネーブ湖の最も深い部分の湖底を調査した。そこはジュネーブ湖東部の、ローヌ川がジュネーブ湖に流れ込む三角州が始まるところで、長さ10キロ以上、幅5キロ、厚さ5メートルに及ぶ巨大な楕円形をした堆積物の層が存在していることが分かった。堆積層のコアサンプル(地質試料)を4つ採取し、含まれていた植物性残存物の炭素年代測定を行ったところ、西暦381~612年という結果が出たという。

 研究チームは報告書で、「この期間の歴史的資料で記録されている大規模な自然現象は西暦563年の事象のみであることから、われわれはこの年代測定結果は堆積層と563年の土砂崩れおよび津波との関連を強く示していると考えている」と書いた。

 ジュネーブ湖は、長さ約73キロの細長い三日月形をしており、泥と水の渦の力が集中して高い波ができる条件が整っているという。浅瀬モデルを用いたシミュレーションの結果、湖東部の三角州で土砂崩れが起きると、わずか15分後に高さ13メートルの巨大な津波が湖畔の各地を襲い、70分後には高さ8メートルの波がジュネーブに到達することが分かった。

■山間地の湖やフィヨルドで津波の危険

 これほどの高さの波が6世紀のジュネーブを襲ったならば聖グレゴリウスが書き残したような甚大な被害が出ていたとみられ、これが現在起きてもジュネーブ中心部の大部分が完全に冠水する被害が出ると考えられるという。

 大規模な土砂崩れは過去1万年間で数回発生しており、三角州の斜面には土砂の堆積が進んでいることから、再び土砂崩れが起きて湖畔に住む100万人以上が被害を受ける恐れがあるほか、ジュネーブ湖以外の山間地の湖やフィヨルド(陸地の奥深く入り込み、両岸が急傾斜した入江)に近い都市も同様の危険があると報告書は警告している。

 津波は通常、陸地に近い海底で起きる地震で海底が持ち上がったり、沈み込んだりすることによって発生する。だが2004年のインド洋大津波以後の研究により、火山の噴火やダム決壊など他の原因によっても津波が発生する可能性が指摘されている。(c)AFP/Richard Ingham and Veronique Martinache