「アンシーン・ツアーズ」、ホームレスの道案内で見るロンドン「裏の顔」
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【10月26日 AFP】英国ロンドンに暮らす56歳の女性ビブさんは、多くのロンドン市民たちと同じように観光案内で生計をたてている。
ただし、ビブさんは普通のガイドではない。彼女はホームレスだ。かつては英国会議事堂やセントポール寺院(St Pauls Cathedral)を見渡せるウォータールー橋(Waterloo Bridge)の下が彼女の住まいだった。「私はここに2か月、暮らしていたんですよ」とビブさんは、観光客たちに説明する。「木の板や新聞紙、ダンボールやなにかで囲いを作ってね」
ノルウェー出身のビブさんは、やつれ気味の表情で歯も何本かは欠けている。だが道端で拾ったという小ぎれいなベージュのレインコートを着こなし、観光客に1人のホームレスの目から見た英国の首都を紹介する仕事を続けている。
ビブさんは、ロンドンのホームレス支援ネットワーク「ソック・モブ(Sock Mob)」が立ち上げた観光案内プログラム、「アンシーン・ツアーズ(Unseen Tours)」(見えざるツアー)に参加するホームレスの1人だ。ロンドン市街を歩きながらめぐり、路上でホームレス人生のストーリーを語る「アンシーン・ツアーズ」では、ビブさんのようなホームレス数人が働いている。
■見所や聞き所が満載なビブさんのツアー
ビブさんのツアーは、テムズ川(River Thames)沿いの公園、ビクトリアエンバンクメント・ガーデン(Victoria Embankment Gardens)から始まる。ビブさんは家族連れがサンドイッチを食べながら腰掛けているベンチを指差し、「あれはかつて、私専用のベンチでした」と話す。決まった「主」のいないベンチがあれば、その場所はホームレスたちの間で口込みで広がるという。
ビブさんによれば、夜間は門が閉められる公園は、ホームレスにとって非常に安全な場所だという。襲われる心配がないからだ。
ビブさんたちの一行は、ビクトリア朝を代表する英国の作家チャールズ・ディケンズ(Charles Dickens)も立ち寄った公衆浴場跡で足を止め、次に100年以上もタクシー運転手たちのたまり場となっている立ち飲みティーショップを経て上流階級御用達のサボイホテル(Savoy Hotel)に到着。そこでロビーに鎮座する黒猫「カスパー(Kaspar)」の像にまつわる逸話を、ビブさんは披露した。ディナー客が13人しかいなかった場合、不吉な数字を避けるため、人間に代ってカスパーが14人目の客として食卓に着く役割を与えられたという話だ。
カスパーの話に続いて、ビブさんは間髪を入れず、サボイホテルに隣接した屋根付きの通路では、かつて最大200人が寝泊りしていたと付け加えた。だが、当局が通路を夜間フェンスで囲うようになったため、ホームレスは寝場所を失ってしまったという。
■ホームレスであるゆえに攻撃対象に
ビブさんは観光客たちに、こんな話もする。
ある日、仲間の年老いた女性のホームレスが若者たちに襲われた。「夜中の2時か3時ごろ、若者たちが彼女の寝袋に灯油をかけ、火をつけようとしたのです。幸い私たちの何人かが騒ぎに気づいて起き出し、若者たちを追い払ったので事なきを得ましたが」
ビブさんが語る過酷な路上生活の現実に衝撃を受けたツアー客の1人が、たまりかねたように尋ねた。「ホテルはどうしたんですか。ホテルには食事の残り物がいっぱいあるでしょう?」
「ここは金持ちのためのホテルなんです」。ビブさんの言葉に皮肉の響きはない。
オランダから旅行で訪れた32歳の自転車デザイナーは、さらに突っ込んだ個人的な質問をした。ビブさんはなぜホームレスになったのか?
「結婚に失敗したんです。子どもを置いて家を出ました」。ビブさんは明らかにそれ以上語りたくなさそうだった。ビブさんは1997年から友人や親戚の家のソファで寝られない時には、公園や橋の下で寝泊りしてきたのだった。
■ツアーから人生を学ぶ参加者たち
「アンシーン・ツアーズ」のチケット代は、1人10ポンド(約1200円)。売り上げの60%が、ガイド役のホームレスの手元に入る仕組みで、ビブさんは週に30ポンド(約3800円)前後を稼いでいる。その他に毎月、交通費40ポンド(約5150円)と電話代20ポンド(約2500円)が支給される。「わずかな金額だけど、それでも価値はあります」とビブさんはいう。とりわけホームレスの自立支援雑誌「ビッグイシュー(Big Issue)」を売ること以外にも、日々を過ごす対象ができたことが大きいという。
ツアーの参加者にとっても、得るものは大きいようだ。ツアーに参加した消防士のアンジ・へスターさん(56)は、ホームレスの人たちが皆「怠け者や脱落者とは限らない」ことをこのツアーは教えてくれると語った。「(ホームレスの)みんなが語るにふさわしい話を持っているんです」
自転車デザイナーのオランダ人参加者は、観光名所の説明よりもビブさん自身の人生に関する話のほうが面白かったという。「ホームレスの人たちにとって、なぜホームレスになったのかというのは、なかなか話しにくいことだと思う。けれどこのツアーではいつもよりも楽な気持ちで質問することができた。いとも簡単にホームレスになってしまうものだと思った。誰にでも起こりうることなんだ。怖いことだよ」
彼と一緒に参加していた友人は、ツアーの終わりにビブさんの手に数枚の硬貨を滑り込ませた。(c)AFP/Beatrice Debut
ただし、ビブさんは普通のガイドではない。彼女はホームレスだ。かつては英国会議事堂やセントポール寺院(St Pauls Cathedral)を見渡せるウォータールー橋(Waterloo Bridge)の下が彼女の住まいだった。「私はここに2か月、暮らしていたんですよ」とビブさんは、観光客たちに説明する。「木の板や新聞紙、ダンボールやなにかで囲いを作ってね」
ノルウェー出身のビブさんは、やつれ気味の表情で歯も何本かは欠けている。だが道端で拾ったという小ぎれいなベージュのレインコートを着こなし、観光客に1人のホームレスの目から見た英国の首都を紹介する仕事を続けている。
ビブさんは、ロンドンのホームレス支援ネットワーク「ソック・モブ(Sock Mob)」が立ち上げた観光案内プログラム、「アンシーン・ツアーズ(Unseen Tours)」(見えざるツアー)に参加するホームレスの1人だ。ロンドン市街を歩きながらめぐり、路上でホームレス人生のストーリーを語る「アンシーン・ツアーズ」では、ビブさんのようなホームレス数人が働いている。
■見所や聞き所が満載なビブさんのツアー
ビブさんのツアーは、テムズ川(River Thames)沿いの公園、ビクトリアエンバンクメント・ガーデン(Victoria Embankment Gardens)から始まる。ビブさんは家族連れがサンドイッチを食べながら腰掛けているベンチを指差し、「あれはかつて、私専用のベンチでした」と話す。決まった「主」のいないベンチがあれば、その場所はホームレスたちの間で口込みで広がるという。
ビブさんによれば、夜間は門が閉められる公園は、ホームレスにとって非常に安全な場所だという。襲われる心配がないからだ。
ビブさんたちの一行は、ビクトリア朝を代表する英国の作家チャールズ・ディケンズ(Charles Dickens)も立ち寄った公衆浴場跡で足を止め、次に100年以上もタクシー運転手たちのたまり場となっている立ち飲みティーショップを経て上流階級御用達のサボイホテル(Savoy Hotel)に到着。そこでロビーに鎮座する黒猫「カスパー(Kaspar)」の像にまつわる逸話を、ビブさんは披露した。ディナー客が13人しかいなかった場合、不吉な数字を避けるため、人間に代ってカスパーが14人目の客として食卓に着く役割を与えられたという話だ。
カスパーの話に続いて、ビブさんは間髪を入れず、サボイホテルに隣接した屋根付きの通路では、かつて最大200人が寝泊りしていたと付け加えた。だが、当局が通路を夜間フェンスで囲うようになったため、ホームレスは寝場所を失ってしまったという。
■ホームレスであるゆえに攻撃対象に
ビブさんは観光客たちに、こんな話もする。
ある日、仲間の年老いた女性のホームレスが若者たちに襲われた。「夜中の2時か3時ごろ、若者たちが彼女の寝袋に灯油をかけ、火をつけようとしたのです。幸い私たちの何人かが騒ぎに気づいて起き出し、若者たちを追い払ったので事なきを得ましたが」
ビブさんが語る過酷な路上生活の現実に衝撃を受けたツアー客の1人が、たまりかねたように尋ねた。「ホテルはどうしたんですか。ホテルには食事の残り物がいっぱいあるでしょう?」
「ここは金持ちのためのホテルなんです」。ビブさんの言葉に皮肉の響きはない。
オランダから旅行で訪れた32歳の自転車デザイナーは、さらに突っ込んだ個人的な質問をした。ビブさんはなぜホームレスになったのか?
「結婚に失敗したんです。子どもを置いて家を出ました」。ビブさんは明らかにそれ以上語りたくなさそうだった。ビブさんは1997年から友人や親戚の家のソファで寝られない時には、公園や橋の下で寝泊りしてきたのだった。
■ツアーから人生を学ぶ参加者たち
「アンシーン・ツアーズ」のチケット代は、1人10ポンド(約1200円)。売り上げの60%が、ガイド役のホームレスの手元に入る仕組みで、ビブさんは週に30ポンド(約3800円)前後を稼いでいる。その他に毎月、交通費40ポンド(約5150円)と電話代20ポンド(約2500円)が支給される。「わずかな金額だけど、それでも価値はあります」とビブさんはいう。とりわけホームレスの自立支援雑誌「ビッグイシュー(Big Issue)」を売ること以外にも、日々を過ごす対象ができたことが大きいという。
ツアーの参加者にとっても、得るものは大きいようだ。ツアーに参加した消防士のアンジ・へスターさん(56)は、ホームレスの人たちが皆「怠け者や脱落者とは限らない」ことをこのツアーは教えてくれると語った。「(ホームレスの)みんなが語るにふさわしい話を持っているんです」
自転車デザイナーのオランダ人参加者は、観光名所の説明よりもビブさん自身の人生に関する話のほうが面白かったという。「ホームレスの人たちにとって、なぜホームレスになったのかというのは、なかなか話しにくいことだと思う。けれどこのツアーではいつもよりも楽な気持ちで質問することができた。いとも簡単にホームレスになってしまうものだと思った。誰にでも起こりうることなんだ。怖いことだよ」
彼と一緒に参加していた友人は、ツアーの終わりにビブさんの手に数枚の硬貨を滑り込ませた。(c)AFP/Beatrice Debut