【10月30日 AFP】タイ政府が農家の所得増加策を導入した結果、大量のコメが売れ残って在庫化し、同国の世界コメ輸出量トップの座が脅かされていると、専門家らが警告している。

 市場価格の5割増しでコメ農家からコメを購入するという政策をインラック・シナワット(Yingluck Shinawatra)首相が1年ほど実施した結果、タイのコメの輸出競争力が落ち、2012年の同国のコメ輸出は前年比で半分近くにまで落ち込む見通しとなっている。

「今年は過去最悪の年だ」と語るのはタイ米輸出業者協会(Thai Rice Exporters Association)のChookiat Ophaswongse名誉会長。「競合国に世界市場のシェアをすでに奪われてしまっている。特にカンボジアやミャンマーなど、輸出用にコメを増産している新規参入国に」

 コメを主食とする人は世界で30億人以上。世界人口の半数近くだ。昨年、タイのコメは世界の輸出市場の3分の1近いシェアを誇っていた。だが米農務省によれば2012年のシェアは同5分の1以下に縮小し、ベトナムやインドに抜かれる見込みだという。

■増加する一方の在庫

 タイは例年、年2000万トンのコメを生産し、そのうち約半分を輸出している。しかし今年の輸出はわずか650万トンほどにとどまりそうだ。

 各地の倉庫が急速に在庫で埋まり保管場所がなくなりつつあるため、バンコク(Bangkok)第2の空港ドンムアン(Don Mueang)の航空機格納庫を一時的に保管場所に使う案も検討されている。政府が在庫を保管し続けるほど、そこに費やされる財政も増えることになる。

■「出口戦略はない」と専門家

 だが、専門家たちは、もしもタイ政府が今すぐこの政策を中止すれば、世界市場に大量のコメが流れ込むことになると注意を促す。

 タイ開発研究所(TDRI)のエコノミスト、Ammar Siamwalla氏は「タイ政府は窮地に陥っている。大量のコメ在庫を抱えて彼らに可能なことといえば、この政策を続けることだけだ。そうしなければ、コメ価格が下落し、政治的な問題になる」と分析する。

「ベトナムとインドはもみ手をして喜んでいるだろう。わが国の輸出が大幅に鈍化した機会を彼らは有効活用している」とAmmar氏は述べる。仮にタイがコメ在庫を世界市場に今放出しようとすれば「コメ価格は急落する」と同氏は警告し、「出口戦略はないのだ」と語った。

 Ammar氏は、現在タイ政府が抱えるコメ在庫を約1000万トンと推計する。また米農務省による在庫推計は、2012年末までに約940万トン、2013年には1210万トンに達するとしている。中国とインドも大量のコメ在庫を抱えているとはいえ、両国はコメの生産量も国内消費量もタイよりはるかに多い。

■国内で支持されるコメ買い上げ策、買い手見つかるか

 農家の所得増加政策によりタイの財政は悪化している。だが多くの農家はこの政策を歓迎している。インラック・シナワット氏が昨年の選挙で地すべり的勝利を収める原動力の一つとなったのが農家による支持だった。

 TDRIによればタイでは約400万世帯が何らかの農作業に従事しており、うち90万世帯がすでにコメ買い上げ政策の対象となっている。この政策は特に大規模農家に大きな利益をもたらすとされ、汚職疑惑もつきまとっているという。

 タイ政府は、同国の農家に生活水準向上をもたらす価格でコメを購入してくれる相手を世界市場で見つけることに確信を持っていると述べている。政府によれば、すでに複数国とコメ売買の直接契約を結んでいるという。

 タイ商務省によると、今年のコメの主要輸出相手国は、ナイジェリア、イラク、インドネシア、コートジボワール、南アフリカ。しかし1~9月期のコメ輸出は前年同期から45%減り、500万トンだった。(c)AFP/Apilaporn Vechakij