【8月31日 AFP】ウマの歩き方に影響を及ぼす遺伝子の変異を特定したという論文が29日の英科学誌ネイチャー(Nature)電子版に掲載された。競走馬の繁殖だけでなく人間の脊髄損傷の治療にも応用が期待されるという。

 研究対象とされたのは、繋駕速歩競走(けいがそくほきょうそう、騎手が2輪馬車に乗って行う競馬)に使われる品種のウマだ。

 繋駕速歩競走には、ウマの同側の前後肢が同方向に動く「側対歩(そくたいほ)」と呼ばれる歩法によるものと、対角線にある前肢と後肢が組になって同時に着地・離地する「斜対歩(しゃたいほ)」によるものがある。

 スウェーデン農業科学大学(Swedish University of Agricultural Sciences)とウプサラ大学(Uppsala University)の研究チームはまず、側対歩ができるウマ40頭とできないウマ30頭の遺伝情報を比較した。

 すると側対歩のできるウマ40頭では、DMRT3として知られる鍵遺伝子の塩基配列にわずか1文字だけ変異があることが浮かび上がった。DMRT3は脊髄の神経細胞内のタンパク質をコントロールしている遺伝子で、チームを率いたウプサラ大のレイフ・アンダーソン(Leif Andersson)氏は、脊椎動物の足の動きを調整する上でDMRT3は決定的に重要だと考えている。側対歩が得意な品種としては、バイキングがアイスランドにもたらしたウマの子孫と言われているアイスランドホース種が知られている。

 さらに、アイスランドホース種とは異なり斜対歩を得意とするアメリカントロッター(スタンダードブレッド)種でも同じDMRT3にはっきりと遺伝的変異が見つかり、研究チームを驚かせた。

 同じく斜対歩をする競技用のフレンチトロッター種でも変異はみられたが、その頻度はアメリカントロッター種よりはるかに少なかった。これについてアンダーソン氏は「フレンチトロッターは非常に強いウマだが時々、斜対歩が乱れることがあり、アメリカントロッターほどきれいな斜対歩を続けることができない。その理由は、遺伝子変異発現の頻度の差にあると考えている」とコメントした。

 研究チームはすでにこのDNA鑑定法の特許を取得しており、使用許諾を受けた研究所で30日から鑑定できる。

 さらにアンダーソン氏は「DMRT3の変異の発見は、脊髄が足の動きをいかにコントロールしているかについて新しい基礎的な知識をもたらした。人間の身体麻痺に関する基礎研究、そして薬剤(開発)にとっても重要だ」と述べている。(c)AFP