【7月6日 AFP】2004年に死去したパレスチナ解放機構(PLO)の故ヤセル・アラファト(Yasser Arafat)議長(当時)の死因がポロニウムによる「毒殺」だった可能性が浮上しているが、この強力な放射性物質については通常、軍事および科学界の外で目にすることはほぼ皆無である。

 ポロニウム210は、ウラン鉱石に自然に含まれる放射性金属で、非常に強いアルファ線(荷電粒子)を放出する。

 アラファト氏の死因との関連で注目される以前にも、2006年にロシア連邦保安局(FSB)の元情報局員、アレクサンドル・リトビネンコ(Alexander Litvinenko)氏が英ロンドン(London)の病院でポロニウム中毒とみられる症状を発症して死亡した際に話題となった。

 ポロニウム210は、微量ならば土壌や大気など自然界や人体にも存在するが、非常に毒性が強いため、多量に経口摂取すると体内組織や臓器が破壊される。非常に希少で、ウラン10グラムあたりに含まれる量は最大でも10億分の1グラムしかない。

 アルファ線を放出することから、産業用では研究や医療目的で用いられるほか、発熱する性質を利用して宇宙探査機などの部品にも使用されるポロニウム210。通常での産業利用においては、人体への悪影響は考えにくいとされている。

 また少量のポロニウム210は、たばこにも含まれている。タバコ葉の栽培で使用されるリン酸肥料から吸収されるためだ。

 ポロニウムは1898年、フランスでピッチブレンド(瀝青ウラン鉱)が発する放射線について研究していたピエール(Pierre Curie)とマリー・キュリー(Marie Curie)夫妻によって初めて発見された。キュリー夫人はこの放射性物質を、当時、国土の大半がプロイセン、ロシア、オーストリアに割譲されていた祖国ポーランドにちなんで、ポロニウムと名づけた。(c)AFP