【2月7日 AFP】乾燥した砂漠地帯の辺縁部にあるオーストラリア・ニューサウスウェールズ(New South Wales)州ダボ(Dubbo)はサンゴ礁よりもラクダが似合いそうな場所だ。しかし、世界最大のサンゴ礁グレートバリアリーフ(Great Barrier Reef)から切り取られたサンゴがこの地で冷凍保存されている。

 マイナス196度の液体窒素で冷やされた容器に入っているのはサンゴの700億の精子と220億の胚。オーストラリア初となるこの野心的な保存計画が、いつの日かグレートバリアリーフを再生させるかもしれない。

「グレートバリアリーフがとんでもなく大変な問題に直面していることは分かっています。その原因は気候変動から水の酸性化、それに水温上昇などさまざまです」と、プロジェクト主任のレベッカ・スピンドラー(Rebecca Spindler)氏は語る。「現在のサンゴ礁で見られるような遺伝的多様性は、二度と現れることはないでしょう。できる限り保存するには、今が最後の機会なのです」

 スピンドラー氏の研究チームは、ハワイ(Hawaii)を拠点に研究している米スミソニアン研究所(Smithsonian Institution)のメリー・ハゲドーン(Mary Hagedorn)氏と協力し、宇宙からでも視認できる広大で鮮やかな自然の驚異、国連教育科学文化機関(ユネスコ、UNESCO)の世界遺産(World Heritage)に登録されたグレートバリアリーフでのサンプルの採取と、その冷凍保存を行っている。

 サンゴの繁殖に不可欠な配偶子を可能な限り多く保管するため、研究チームはサンゴの一部を研究所に持ち帰り、1年に3日ほどしかない産卵を待ってサンプルを採取した。その後サンゴは、タグを付けた上で有力な研究パートナーであるオーストラリア海洋科学研究所(Australian Institute of Marine ScienceAIMS)の専門家によって、採集地のオルフェウス島(Orpheus Island)に戻された。サンゴは文字通り、生息地にのりづけして修復された。

■社会経済的にもかけがえのないサンゴ礁

 研究チームは、温暖化や酸性化による白化の拡大や、化学物質の流出、台風や洪水による被害などの脅威に対する保護手段として、サンゴの多様な種のカタログづくりを急いでいる。スピンドラー氏はいずれ、人工環境で育てたサンゴで、自然環境のサンゴを増やしたいと考えている。スピンドラー氏はあと数年以内に実現可能だと確信を持っているという。

 オーストラリア随一の野生生物繁殖研究所のあるニューサウスウェールズ州ダボのウエスタン・プレインズ動物園(Western Plains Zoo)の専門家たちは、サンゴを冷凍保存して、サンゴの繁殖に最適な条件を突き止める計画だ。

 研究者のナナ・サタケ(Nana Satake)氏は、すでにサンプルを採取した基礎的なサンゴ2種の研究が進めば、グレートバリアリーフなどにしか生息していない絶滅の危険が高いサンゴの希少種の研究もできるようになるかもしれない、と語った。

 世界の海洋生物の3分の1は、生涯のうちいずれかの期間をサンゴ礁で暮らしていることに加え、サンゴ礁には、波を和らげて沿岸部の土地を侵食から保護する効果もある。グレートバリアリーフはオーストラリアの観光業に年間60億オーストラリアドル(約5000億円)の収益をもたらしている。

 スピンドラー氏は「生態学的、経済的、社会的に言って、私たちにサンゴ礁を失うという選択肢はないのです」と語った。(c)AFP/Amy Coopes

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