【9月22日 AFP】深海に生息するキタノヤツデイカ(学名:Octopoteuthis deletron)のオスは、相手がオスであろうと交尾をする。交尾には「前戯」も「愛撫」もない――。カメラ映像からキタノヤツデイカの性生活が明らかになったとする論文が、21日の英国王立協会(British Royal Society)の専門誌「バイオロジー・レターズ(Biology Letters)」に発表された。

 キタノヤツデイカは、外海の水深800メートルの暗闇の世界に生息する。このような環境では、交尾相手も少なく、恋人探しの旅は長く孤独なものになりそうだ。米モントレー湾水族館研究所(Monterey Bay Aquarium Research Institute)のヘンドリック・ホビング(Hendrik Hoving)氏のチームは、キタノヤツデイカは例え相手に遭遇してもオス・メスの区別ができず、オスは最初に出くわした成体と、性別に関係なく交尾をしているのではないかと考え、モントレー湾海底渓谷の水深400~800メートルの生息域を、ロボット潜水艇で生態を観察した。

 きっかけは、ホビング氏が、空の精子袋(精子器)が体に突き刺さったオスの死骸を漁網の中に見つけたことだった。

 キタノヤツデイカの繁殖サイクルは、次のようなものだ。オスは交尾の際、ペニスのような長い突起を使ってメスの体に精子器を突き刺し、メスの体内に精子を放出する。その後、オスは交尾から程なくして死んでしまう。

 潜水艇のカメラは全部で108匹をとらえたが、性別を特定できたのは39匹(オス20匹、メス19匹)にとどまった。生殖行為そのものを撮影することはできなかったが、謎は解けた。うち19匹(オス9匹、メス10匹)の体の前と後ろに精子器が刺さっていたのだ。

「オスは、メスと同じくらいオス同士でも交尾している。言い換えれば、見境なく交尾している」と論文は結論付けている。

 この「暗闇での当てずっぽうのセックス」は、進化論的にはあまり意味がないことのように見えるが、精子を他のオスで浪費する場合の代償は、求愛行動を取ったりオス・メスを区別する能力を発達させる場合の代償より少ないのかもしれない。

 ただ、1点だけは確かだという。論文は、「このような振る舞いは頭足類の多くが取っている『太く短く』生きる戦略を体現している」と結んでいる。(c)AFP/Marlowe Hood