【5月3日 AFP】パキスタンの夏のリゾート地でおだやかな生活を望んでいたあるITコンサルタントは、ウサマ・ビンラディン(Osama Bin Laden)容疑者を殺害した米軍事作戦の様子を、それとは知らぬままツイッター(Twitter)で実況ツイート(つぶやき)してしまったために、インターネットの渦中の人となってしまった。

 パキスタン北部アボタバード(Abbottabad)在住のITコンサルタント、ソハイブ・アタル(Sohaib Athar)氏(@ReallyVirtual)は、2日未明に自宅そばでヘリコプターの音を聞くまでは、気の利いたツイートをつぶやく、ごく普通のツイッター・ユーザーだった。

 だが、今やアタル氏は、ビンラディン容疑者殺害の米軍事作戦を伝えた最初の人物として、9万人近くにフォローされ、世界の有名人となってしまった。アタル氏のもとには電子メールが殺到し、世界中のメディアからインタビューの依頼も届いている。ブログまでハッカーに攻撃をされる始末だ。

「ビンラディンは死んだ。わたしが殺したんじゃない。もう寝かせてくれ」と、アタル氏の実況ツイートのニュースが世界中を流れるなか、本人はつぶやいていた。

■ヘリコプターの騒音、その後爆発音が

 それは、現地時間2日未明の1つのツイートから始まった。

「ヘリコプターが午前1時にアボタバード上空でホバリングしてる(めずらしい)」とアタル氏はツイートした。「ヘリコプター、あっちへ行け。巨大ハエたたきを取り出すぞ」

「大きな窓がガタガタ鳴るほどのごう音。よからぬ出来事の始まりでなければいいけど」――このとき、米軍特殊部隊は、作戦をまさに実行していた。

「爆発後、静かになった。だが6キロ先の友人も音を聞いたと言ってる。ヘリコプターもいなくなった」

 アタル氏はヘリコプター墜落のニュースへのリンクを紹介し、「どうやら巨大ハエたたきが役に立ったみたいだ」と冗談を付け加えた。

■異例な事態の雰囲気

 まもなく、何らかの異例の事態が起きていることが徐々に明らかになってきた。「この深夜の時間帯にネットをやってるごくわずかの人たちは、ヘリの1機がパキスタン軍のものじゃなかったと言ってる」

 だが、この時点では、ビンラディン容疑者への攻撃だったことを示す情報は、まだ何1つ公表されていなかった。

「笑っちゃうな。アボタバードに移住したのは『安全対策』だったんだけど」などと冗談を述べつつ、アタル氏は、パキスタン軍基地近くの、攻撃のあった地点のリンクを紹介した。

「タリバン(Taliban)はヘリコプターは持ってないだろうし、彼らは自分たちのヘリではないと発表すらしている。これは複雑な事態が起きているのだろう」と、CNNのコメンテーターばりの現状分析も披露した。

 しばらくして、アタル氏のフォロワーの1人が、バラク・オバマ(Barack Obama)米大統領がテレビ演説を予定してることと、ヘリ墜落との接点を指摘した。「アボタバードのヘリ墜落と、オバマ大統領のテレビ演説予定は、関連していると思う」と、このフォロワーは述べた。

 そしてついに、アタル氏は、ビンラディン容疑者を狙った米軍作戦だということに気付いた。

「ウサマ・ビンラディンがアボタバードで殺害された。ISIが確認した。<<おやおや、これは近所だね」

「おっと。どうやらわたしは、それとは知らずにウサマ襲撃を実況中継した男になってしまったのか」

■「この世界は変わってない」

 本人のウェブサイト「www.reallyvirtual.com」によると、アタル氏はパキスタンのラホール(Lahore)出身の33歳。プログラミング経験18年で、子育て経験が7年だという。

 ツイッターで自己紹介するように、「山あいに隠れて、競争社会から少し離れて」静かな生活を送りたいと願うITコンサルタントに過ぎなかった。まさか自分が、ビンラディン容疑者を殺害した米軍事作戦の、唯一の実況リポーターになるとは思いもよらなかっただろう。

 世界中で大きな注目を集めたが、アタル氏はほとんどのインタビュー依頼を断っている。

「今もネットを見てる。まだこっちは電気がない。それに戦争も終わってない。この世界は変わってない」と、アタル氏は3日、つぶやいた。(c)AFP/Sajjad Tarakzai

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