【3月9日 AFP】中国に2億人以上いる出稼ぎ労働者の1人、リュウ・ジュンさん(25)は、仕事探しに苦労するだろうと覚悟していた。しかし「売り手市場」という意外な現状を目の当たりにした。

 春節休暇明けに上海(Shanghai)で行われた政府主催のジョブフェア。安徽(Anhui)省のパッケージ印刷工場で5年間働いた経験を持つリュウさんは、豊富にある選択肢(企業)を1つ1つ調べながら、「近頃では(企業側が)僕のような熟練工を見つけるのは簡単ではなくなっているんです」と、日焼けした顔を自慢気にほころばせた。

 過去10年間、労働集約型製品の輸出が爆発的に伸びた中国。その原動力となった膨大な労働者人口は減少を始めていると、専門家は言う。これは、不満をもつ出稼ぎ労働者が依然として社会不安の元凶と見なされる一方、主導権が雇用主から従業員へ移りつつあることを意味している。

「以前勤めていた会社から、戻ってきてくれないかと何度か連絡がありました。でも提示された賃金の上げ幅に満足できなかった。それに、妻も僕も上海で仕事を見つけたかったんです」(リュウさん) 

 2007年に最初の兆候が現れた「労働力不足」は、輸出産業が盛んな沿岸部から地方の中核都市にまで広がりつつある。原因は、過去30年間の急速な経済成長のさなかに「一人っ子政策」による人口構成の変化が起きていたことだ。英スタンダードチャータード銀行(Standard Chartered Bank)のエコノミスト、スティーブン・グリーン(Stephen Green)氏は「20年前に始まった出生率低下により、中国の労働力人口はまもなく減少に転じるだろう」と指摘する。

 その影響は春節休暇後に見ることができた。多くの労働者が休暇前に仕事を辞め、そのまま戻ってこなかったのだ。上海の電子製品工場をやめたばかりだという21歳の男性は、マクドナルドのハンバーガーをほおばりながら故郷の四川(Sichuan)省に向かうバスを待っていた。AFP記者に次のように語る。「もうここには戻らないよ。賃金が上がらないばかりか、物価の方がどんどん上昇していくんだ。僕はまだ若いし、先は長い。親戚がやってる自動車修理工場でスキルを身につけるつもりだ」

■「合コン」も実施、働き手を引き留める涙ぐましい努力

 中国では昨年、トヨタ(Toyota)やホンダ(Honda)など、外資系企業の工場で従業員による賃上げ要求ストが相次いだ。多くの場合、企業側は要求をのんで賃上げに踏み切った。

 ストの嵐が収まると、従業員のモラル向上のため、出稼ぎ労働者の地元に近い内陸部への工場移転を検討する企業が増え始めた。

 この流れに焦っている企業は多い。上海のジョブフェアで、上海の機械メーカーの採用担当者は「今年は特に大きなプレッシャーにさらされています。中国南部の企業の多くが内陸部に投資し、地元住民を雇用しようとしていますから」と危機感を口にした。この幹部の出身地でもある安徽省では、地元当局がバスを用意して求職者らをジョブフェアに送り届けるなど、地元企業の採用活動をバックアップしている。 

「賃金は去年と比べて大きく改善されました。3日間で当社のブースには数百人が訪れましたが、採用人数は目標の80人にまだ到達していません」と話す採用担当者。この機械メーカーでは、近くの縫製工場の女性従業員との合コンも実施している。若い男性従業員を引きとめておくための作戦だ。

 みずほ証券(Mizuho Securities)香港(Hong Kong)現地法人のエコノミスト、沈建光(Shen Jianguang)氏は、「中国は近い将来に労働力不足に見舞われるが、この問題は中国経済にとってチャンスにも脅威にもなる。経済成長のパターンを変える必要性はますます強くなるだろう。小規模な労働集約的な部門が縮小しないかぎり、労働力不足が緩和することはない」と話している。(c)AFP/Joan Feng